NIPTは夫婦で受ける遺伝カウンセリングが必須

 「確定的検査である『羊水検査』『絨毛検査』や精度の高い非確定的検査である『NIPT』は受けられる人に制約があり、また高額なのが特徴です。日本産科婦人科学会や実施施設が定めた条件に該当し、かつ希望した人だけが受けられます。保険の適用がない自費診療で、助成制度もありません」と河合さん。

 流産リスクがなく、精度の高さで今注目されているNIPT。検査対象となるのは、以下のいずれかの条件を満たす人です。

●分娩予定日に35歳以上
●染色体疾患(21・18・13トリソミーのいずれか)の児を妊娠、分娩したことがある
●他の検査で21・18・13トリソミーの可能性の上昇を指摘された

 日本産科婦人科学会の指針により、臨床研究として認定された施設(全国71施設。2016年7月5日現在)のみで、受けることができます。

 検査前後の遺伝カウンセリングが義務付けられており、検査で陽性となった場合、必ず確定的検査へと進まなくてはなりません(遺伝カウンセリングは1回あたり5000円~1万円※編集部調べ)。妊娠継続の前提で確定的検査を受けずに自然経過を見ていくという選択肢はあります。

<臨床研究施設一覧>
日本医学会 http://jams.med.or.jp/rinshobukai_ghs/facilities.html

■「遺伝カウンセリング」とは?
  「日本産科婦人科学会の見解ではすべての出生前診断は適切な遺伝カウンセリングを行った上で実施することと明確に規定されていますが、実際のところ日本では見解が遵守されていないことがあります」と指摘する末岡医師。現在、NIPTにおいては、遺伝カウンセリングが必ず実施されています。なお、NIPTの遺伝カウンセリングは、必ず夫婦で受けることとなっています。

 「相談に当たるのは、臨床遺伝専門医の認定を受けた医師、もしくは認定遺伝カウンセラーの資格を持つ人。検査前のカウンセリングでは、心配している疾患や検査についての知識を深めたり、検査を受けるかどうかの相談を、検査後のカウンセリングでは、検査結果を正しく解釈するためのサポートや結果を受けてどう行動するかについて相談できます」(河合さん)

NIPTの陽性的中率は群を抜いて高い

 非確定的検査には多くの検査法があり、検査を受ける時期、分かる疾患も異なりますが、気になるのはそれぞれの検査の精度です。

 検査で陽性と判定されて、実際にその子がその病気である確率(=陽性的中率)と、検査で陰性と判定されて、実際もその病気ではない確率(=陰性的中率)の2つを見ていくと、検査の種類によって違いがあります。

 「北海道大学病院(北海道札幌市)が、複数の論文や検査会社のデータから算出した値(図表4)を見ると一目瞭然ですが、陽性的中率には大きな差があります。特に、NIPTの精度は非確定的検査の中では、他のものよりはるかに高いことが分かります。一方、陰性的中率は、どの検査方法を選んでも大きな差はなく、どの年代・検査法でも99%以上の精度です」と河合さん。

※『出生前診断~出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)P27図表4「検査による陽性的中率の違い(21トリソミー)」から引用
※『出生前診断~出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)P27図表4「検査による陽性的中率の違い(21トリソミー)」から引用

 NIPTで陽性と判定された場合も結果の確定を希望する場合は、必ず確定的検査へ進むことが必要になります。陰性が出た場合は、陰性的中率の高さから、リスクを伴うさらなる確定的検査へと進む人はごく少数です。

『出生前診断~出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)
『出生前診断~出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)

 「ただし、的中率は疾患ごとに変わり、検査対象となる母集団によっても上下するので、数値の読み取り方には注意が必要。疾患のある人が多い集団では、陽性という判定が当たりやすくなります。一部メディアで『精度99%』という報道もありましたが、ローリスクの妊婦さんに陽性が出たときの精度は、そこまでは高くないということを知っておく必要があります」(河合さん)

 上記表を見ると、21トリソミー(ダウン症候群)におけるNIPTの陽性的中率は40歳で93.66%ですが、35歳では79.92%。ローリスクといわれる一般的な妊婦の場合は、約50%まで下がります。

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 次回は、出生前診断に伴って起こる問題点と、受精卵の特定の遺伝子や染色体だけを調べる“臨床研究”として現在実施されている「着床前診断」について紹介していきます。

末岡 浩

(すえおか・こう)。慶應義塾大学医学部産婦人科学教室 准教授。慶應義塾大学病院産科診療副部長。医学博士(慶應義塾大学)。出生前診断、着床前診断の研究に長年取り組み、日本で初めて着床前診断の倫理承認を得て実施した。国内の着床前診断の多くの事例を同病院で実施している。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会臨床遺伝専門医制度 臨床遺伝専門医・指導医。

河合 蘭

(かわい・らん)1959年生まれ。3児の母。カメラマンとして活動した後、1986年より出産関連の執筆活動をスタート。妊娠・出産・不妊治療・新生児医療などを取材してきた、日本で唯一の出産専門ジャーナリスト。東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産 「つながり」で築く、壊れない医療』(岩波書店)、近著は浅田義正氏との共著『不妊治療を考えたら読む本 科学でわかる「妊娠への近道」』(ブルーバックス)。出生前診断の全容が分かる著書『出生前診断~出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)が「科学ジャーナリスト賞2016」を受賞。

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(文・構成/中島夕子、日経DUAL 加藤京子 イメージ写真/吉澤咲子 協力/北海道大学病院 産科・周産期母子センター・臨床遺伝子診療部外来医長 山田崇弘医師)