40歳以上では8割の受精卵に染色体異常があるという事実

 妊娠中は「おなかの子が健康に育っているか」誰しも少なからずの不安があり、健康な赤ちゃんを産みたいと考えるのは自然な願いです。しかし、女性の加齢とともに胎児の染色体異常のリスクは高まることが分かっており、高齢出産を経験する人は、任意の出生前診断を受けるかどうか、迷い悩むことも少なくありません。

 「実は母体の年齢が若くても、約5割の受精卵には染色体異常があります。それが40歳以上になれば約8割まで増加します。自然の摂理は非常に厳しいもので、妊娠中の胎児に染色体異常があった場合、その多くが自然淘汰され、流産率も約3割と高くなります」と言う末岡医師。

出生可能なトリソミーの中で多く起こるケース

 ヒトの染色体は1番から22番まで対になった44本の常染色体と、性別を決めるX・Yという2本の性染色体から成っています。染色体は父親と母親から1本ずつ受け継いで対になっていますが、染色体異常の代表的なものに、この常染色体が2本の対ではなく3本になるトリソミーがあります。

 「染色体は全部で24種類ありますが、出生可能なトリソミーの中でも多く起こるのが13番・18番・21番。13・18トリソミーは重症化しやすく、胎児死亡や生まれてすぐに亡くなってしまうケースが多いのですが、21トリソミー(ダウン症候群)の場合、約8割が流産、約2割は出産に至ります。ダウン症児の出生率は、母体が30歳で700分の1、40歳では80分の1といわれており、医療の進歩により現在平均寿命が約55歳まで伸びています」と末岡医師は解説します。

 染色体異常や先天性疾患の可能性が分かる出生前診断。出生前診断を取り巻く環境が大きく移り変わる中、これから妊娠を考える人には、その存在を“知らない”ではいられない大切な知識です。検査法の概要と特徴を、末岡医師と河合さんへの取材を基に次から詳しく見ていきます。

出生前診断には確定的検査と非確定的検査がある

 「今、出生前診断は種類が増えて、全体像を把握するのはとても大変なこと。実は、誰もが受けている超音波検査さえも、立派な出生前診断なのです」と河合さんは説明します。「ただ超音波検査は、多くの場合、確実な答えが出る検査ではありません。出生前診断は大別すると、確かなことが分かる『確定的検査』と、異常のある可能性を推し量る『非確定的検査』に分けられます」。河合さんは、この多様で複雑な出生前診断について、それぞれの検査が持つ特徴を、著書で以下のような一覧表にまとめました。

※『出生前診断~出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)P23図表2「胎児疾患を調べる検査」から引用

 確定的検査だけを受ける人もいますが、国際的に見ると、一般的な流れは、まず非確定的検査を受けて、それが陽性だと確定的検査に進んで結果を確定させるというものです。

 「なぜ確率しか分からない非確定的検査を受けるのでしょうか? それは、羊毛や絨毛を採る確定的検査は流産の危険を伴うからです」(河合さん)

 多様な検査方法がある中で、末岡医師が念押しするのは「その検査はどれだけの精度があり、結果から分かることは何か。どのくらいのリスクや不確定要素を含むのかということを知ったうえで、各検査を受けるかどうかを決めてほしい」ということ。

 「染色体異常は数の異常と構造の異常に分けられますが、例えば、今話題になっている新型出生前診断(NIPT)は、13・18・21番染色体の『数』の異常に反応する検査で構造上の異常については分かりません。検査で染色体異常が見つからなくても、成人発症の別の疾患を抱えている可能性もあります。さらに確定的検査である羊水検査などで詳細な情報を知ることのできる方法では、13番、18番、21番以外の染色体の数の異常や構造異常といった異常も見つかってしまう可能性やそれが結果的には本来知りたくなかったものであることもありますし、的中率が低いにもかかわらず、数値のインパクトから過剰なショックを受ける非確定的検査もあるので、検査を受ける前には理解が必要です」(末岡医師)