親として知っておきたい、保育園の“あるべき姿”

入園後3カ月を過ぎ、夜泣きをしたり、帰宅後ちょっとしたことで泣いてしまったりするようになった寛也くん。不安に思ったえみさんは、保育士に相談しましたが、なかなか思うように取り合ってもらえませんでした。

栗並 当時は「自分が神経質すぎるのかな」「おおらかじゃない母親なんてかっこ悪いな」などと思っていましたし、何より「保育士さんはプロなのだから、その人達が大丈夫だということは大丈夫なんだろう。保育士さんを信頼しよう」と自分に言い聞かせていたんです。

実は、夜泣きが始まったのと同じころから寛也くんが通う0歳児クラスには立て続けに何人もの年度途中入園があり、人数が急増していました。えみさんは、園の玄関にある登降園の確認名簿に、日々、新入園児の名前が追加されていくのを見てそのことを知り、不安に思っていました。「わが子の様子の変化は園児の急増と関係があるのでは」と感じ、前述のように園へ何度も相談していたのです。そのときは「園での生活に特に変わったことはありません」との答えでしたが、園児の急増により0歳児クラスの部屋が手狭になったことから、0歳児の一部を1・2歳児と同じ部屋に移動させて、一緒に保育を行っていたことを園から聞かされたのは、寛也くんが亡くなった後のことでした。

栗並 保護者は玄関先までしか入りませんから、中の様子が全然分からなかったのです。0歳児にとって、1日の大半を過ごす部屋が変わることは大きな変化だと思うのですが、そういう意識が園側にはなかったのでしょうね。だから誰に聞いても「特に変わったことはありません」と言われてしまったのでしょう。そうしている間に事故が起きたわけです。

 その後、数カ月かけて私達夫婦が聞き取り調査を行ったところ、「1・2歳児が室内を走り回っていて、保育士が落ち着いて0歳児の食事を見守れる状況になかったこと」が分かりました。また、同時に保育に関する法令などを勉強し、事故当時の保育環境について「児童一人あたりの部屋面積が、国が定める最低基準を下回る状態だったこと」を突き止めました。

一方、現在2人のお子さんが通う園と、長男の園では、対応が大きく異なっている部分があるようです。

栗並 今の園は何か疑問や不安に思うことがあって私が相談すると、必ず数日中に、園長・副園長などの責任ある立場の方が直接話をしてくれたり、担任の先生から回答がある場合にもその場限りの答えでなく、園長・副園長に相談するなどしたうえで話をしてくれたりします。小さな不安でも、放置されると不安に加えて不満も募りやすいですが、都度、きちんと返事をしてもらえるので園への信頼が増していきます。 

 例えば、離乳食一つとっても、栄養士さんが個別に話し合いをしてくれるのです。2つの園を経験したことで、「保育園は一園一園全く違う組織なのだ」ということが初めて分かりました。

「信頼関係を築ける園か、安心してわが子の保育を任せることができる園かは、残念ながら実際に入園してみなければ分からない」とえみさんは言います。自身、二人目の子を保育園に預ける際は、「迷い、とても悩んだ」と振り返ります。

また同じことが起きるかもしれない。それでも保育園に預け、働き続ける意味

栗並 今お世話になっている園も、決して確信を持って選んだわけではありません。長男を事故で亡くした私が、再び子どもを産み、保育園に預けて働くことに対しては、批判の声も聞こえてきました。私自身、「また同じことが起こるかもしれない」という不安もありました。入園してみて「いい園だった」と思ってはいますが、入園して実際に生活してみないとやはり確信は持てませんでした。

 冷たい言い方かもしれませんが、初めて保育園に子どもを預ける保護者にとって「事前に園の質を見極める」というのは難しいと思います。

「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」
「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」

そういう思いもあって、栗並夫妻が何年も努力して実現させたものがあります。それが、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」です。これは幼稚園・保育園・認可外保育施設すべてを対象としているガイドラインで、えみさんのほか幼稚園・保育園の現場や保育行政の担当者、事故予防などの専門家らが策定委員となり、議論を重ねた後、2016年3月31日に厚労省から公表されました。「施設・事業者向け」「自治体向け」に書かれたものではありますが、誰でも厚生労働省のサイトから閲覧することが可能です(「『教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン』の公表について」)。「中でも、『事故防止のための取り組みガイドライン』を、保育園の質を見極めるヒントにしてほしい」とえみさんは言います。