待機児童問題が深刻化する中、「妊娠中から必死に保活をする」という夫婦も増えています。ただし、残念ながら、わが子をなんとか保育園に入れることができたとしても、「ああ、よかった」とは安心できないのが実情のようです。待機児童問題に加え、保育の場が安全で安心であるかどうか。今、その「保育の質」が問われています。労働経済ジャーナリストとして女性の就労問題にも取り組んでいる小林美希さんに、日本の保育園で何が起きているのか、今後どのような方向に向かっていくのかを伺いました。

【「今、保育園が危ない」特集】
第1回 「園の運営に対して不安に感じる」親は50.8%
第2回 「保育の質」は下降する!? 今、親にできること ←今回はココ
第3回 保育の質を改善するには、親達の「つぶやき」が必須
第4回 保育園“モンペ”にならない上手なクレーム術とは
第5回 現役保育士の座談会「保護者には何でも言ってほしい」
第6回 公立園と民間園では雲泥の差。厳しい「保育士事情」
第7回 わが子を保育園で亡くした夫婦 事故防止策を作成

「保育園に預けたはいいけれど……」、心配する親達の声

最近、ささやかれている「保育の質」の低下という問題。ジャーナリストの小林さんは、2015年刊行の『ルポ 保育崩壊』(岩波新書)の中でこの問題を取り上げています。小林さんは、いつごろから保育園問題に注目してきたのでしょうか?

労働経済ジャーナリストの小林美希さん
労働経済ジャーナリストの小林美希さん

小林さん(以下、敬称略) 私は保育士の労働問題という視点で、約10年前から保育園の問題を追ってきました。特に「保育の質」に注目し始めたのはここ数年です。

 2013年に『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)を出したとき、妊娠解雇などで社会や地域とつながりを持つことができず、孤立する母親達の姿を目の当たりにしました。

 ちょうどその年の3月、保育園の選定から外れた杉並区の母親達が路上に出て区役所を囲み、抗議デモをする“保育園一揆”あるいは“杉並母親の乱”と呼ばれた運動が起こり、ここから待機児童問題が世間的にも脚光を浴び始めたのです。 

 でも私が気になったのは、その先がどうなっているか。

 職場のマタハラ問題や待機児童問題をかいくぐって保育園に預けたはいいけれど、「うちの子の園は大丈夫なのか」「『保育の質』はどうなんだろう」という疑問の声が母親達から聞こえてきたのです。そこから「保育園の内側を深掘りしていかなくては」と思うようになりました。

<次ページからの内容>
・ 「どの保育園に入るかでその子の一生が決まる」
・ 保育園の「保育の質」を低下させる2つの要因
・ 2000年の規制緩和が生んだ新たな問題
・ 儲からない保育ビジネスに企業が参入するわけ
・ 保育時間に習い事の要素を入れる保育園の本質とは?