他愛ないけれど、話すのも聞くのもうれしかった。物心がついたときには戦争が始まっていたので、戦争のない暮らしがどういうものかわからない。だからこそ、知りたい。

 そして、授業開始の鐘がなると、さっと軍国少女に変身したのです。

すべての母親たちがものすごい緊張の中にいた

P114~115(絵本リスト)/中川さんの全作品がカラーで収録
P114~115(絵本リスト)/中川さんの全作品がカラーで収録

 家で両親は、戦争の話はあまりしませんでした。大人と子どもの生活はきっちり分かれていましたから。子どもが大人の話を聞くのも許されず、聞こうとしたら追い払われました。

 でも、戦争が続くうちに、親の顔から笑顔が消え、表情がどんどん険しくなっていくのはわかりました。毎晩、両親は声を殺して、小声でひそひそと話をしています。親に見つからないよう苦心して聞き耳を立てると、聞こえてくるのは「赤紙」「戦地」「防空演習」……。常に落ち着かず、不安でした。

 今なら、すべての母親たちがものすごい緊張の中にいたのがわかります。

「いつ召集令状が来て、夫や息子を兵隊に取られるか」と不安と隣り合わせの日常を送っていたのですから。赤紙が来たら、即出征です。

 母親も「見送る」だけではありません。子どものいるお母さんだって、従軍看護婦として戦地へ行ったのです。

 女の子が将来なりたいのは看護婦さん。男の子がなりたいのは兵隊さん。「戦地へ行く」しかお国のためにできることはないと決まっていました。

3年生の男の子が「別れのさかずき」を持っていた

 今でもはっきりとおぼえています。小学生向けの月刊誌『少国民の友』に載った「戦地に赴く母」のグラビア写真を。濃紺の制服をピシッと着て、赤十字のマークがついた帽子をかぶり、肩から水筒と赤十字のついたバッグを下げた、母と同年代の看護婦さん。向かい合っているのは、学童服を着た3年生くらいの男の子。男の子はさかずきを持っています。別れのさかずきです。ショックでした。今でも、あの1枚は私の脳裏に刻まれています。

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