「発想のすごい詩」が「祈りの詩」となった瞬間

 私の好きな谷川俊太郎の詩がある。「あかんぼがいる」という詩だ。生まれたばかりの孫娘に、祖父である著者は呼びかける。お前は何になるのか、妖女か、貞女か、今はどれも流行らないなとつぶやいた後で、こう語りかける。

 「だがお前さんもいつかはばあさんになる
 それは信じられないほどすばらしいこと
 うそだと思ったら
 ずうっと生きてってごらん
 (中略)
 そのちっちゃなおっぱいがふくらんで
 まあるくなってぴちぴちになって
 やがてゆっくりしぼむまで」

 (谷川俊太郎「あかんぼがいる」)

 赤ん坊に年老いた姿をイメージする人は、ほとんどいない。しかし、谷川俊太郎は自分が年老いているからこそ、老いるまで生きることの素晴らしさを言葉にする。この詩は1992年、新聞の朝刊に載っていた。当時、結婚すらしていなかった私には「発想のすごい詩」ではあったけれど、そこまでの感想だった。しかし、娘を産んだ瞬間からこの詩は私にとって「祈りの詩」となった。あなたが私より先に死にませんように。「ばあさんになる」まで、生きますように。