「『となりのトトロ』は僕にとっての“啓示”でした」

―― 監督はジブリ映画にとても関心をお持ちのようです。監督とジブリ映画の出合いを教えてください。

ムーア 21歳のころ、大学で映画製作を学んでいたときに『となりのトトロ』を見ました。もっと小さいころに出合っていればよかったと思うほど大好きな作品です。時を超越しているのに、どこか懐かしさを感じる。そして子どもから愛されるだけでなく、大人も心から楽しめる。さらに、日本独特の文化を映画を通して感じることができる。

 例えば、僕は横に開く引き戸や、神社の鳥居に映画を通して出合い、ものすごく感動したんです。表現を選ばずに言えば、僕にとってはまるで“啓示”のようでした。そのときまでは日本の映画はSF映画の『AKIRA』のようにアクションの印象が強かったのですが、トトロは穏やかで日本文化を伝え、懐かしい気持ちもさせる映画。本当に素晴らしい出合いでした。

京都に移住して4年目。夫は単身赴任中で、普段は「祖母・母・子ども2人」の生活

―― さて、少しテーマを変えて伺います。本上さんは現在、京都にお住まいですね。お仕事のために上京されることもあると思うのですが、そういうときは家事や育児をどのように回していらっしゃるのでしょうか?

本上 わが家が京都に引っ越して4年が経つのですが、ここ半年は夫が東京に単身赴任しています。私の仕事をサポートするという意味もあって、関西の母に来てもらい、普段は母・私・子ども2人という4人体制で生活しています。なので、東京で私が仕事があるときは母に子どもを見てもらっているんです。なかなかイレギュラーな形ですよね。

 関西に引っ越した理由は、私の母と夫の母が関西に住んでいたことも大きかったのです。母は山形育ちですが、その後、関西に移り、私自身も関西育ち。私は仕事のために東京に出ていました。でも「子どもが小さいうちに東京ではない場所で子育てをしてみたいな」と思い、夫と相談して、双方の実家が近い京都に引っ越そうかということになって移ったんです。結果的に夫は東京に戻ることになり、私も行ったり来たりなので、子どもと離れている時間がちょっと増えてしまったのは寂しいですね。

 この映画の家族は、パパはいて、ママがいない設定ですよね。それと少し似ていて、私が家を空けるとき、子ども達は見送りながら「次、いつ帰ってくるの?」みたいな感じで(笑)。そんな生活を送っています。

ムーア 僕の場合は子どもがもう大きくなってしまって、そういう意味で子どもと離れている時間が増えて寂しいですね。大学が夏休みになると戻ってきてうれしいです。僕の妻も学校で陶芸を教えている陶芸家。夫婦共働きなので、そういう親御さんのご苦労は僕も分かりますね。

―― アイルランドでも共働きの夫婦が増えているのでしょうか?

ムーア 増えていますね。共働きの核家族が増えて、“家族”そのもののサイズが小さくなっているように感じます。僕の映画製作スタジオのメンバーは若いときからずっと一緒にやってきた仲間なので、みんな結婚する年齢になりました。社内結婚するカップルもいます。この作品にも関わってくれて、他の映画の監督もしているノラ・トメイという女性のメンバーがいますが、彼女は今、監督業で忙しい。彼女の夫は背景の絵を描く担当者でしたが、二人の間に生まれた子どもをお世話するために、「私は監督業があるから、家のことはお願いできるかしら」と夫のほうが家に入ることになったようです。スタッフの子どもも増えてきて、スタジオ内にベビーベッドを置いたり、小さな保育所を作ったりしないといけないな、と本気で思っているぐらいです。

ベンが心から慕う母と過ごした最後の夜。幼いベンはその後の冒険など知る由もない
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