どんなに大切なものでも、いつか手離さなければいけないときが来る
―― ラストシーンは母親の立場で見ると、本当に悲しくてやるせなさを感じました。どういうお気持ちであのシーンを作ったのでしょうか?
ムーア この物語全体のメタファー(隠喩)には、アイルランドの民話である「セルキー」(アザラシの妖精)の物語があります。この映画においてセルキーは“失ったもの”の象徴です。大切なものは、やはりいつかどこかで手離すときが来ます。そして、手離したうえで、自分の心の中に思い出として大事にしていく。それはいつまでも永遠に歌や物語の中に語り継がれていくものである。それが、この映画のテーマの一つです。
感動の涙を流す親の隣で、楽しげに大笑いする子ども達
―― アイルランドと日本以外で、この映画はどのような国々で上映されていますか?
ムーア 米国やイタリア、フランス、ベルギーなどの欧米諸国を中心に上映されています。アジアでは昨年11月に韓国で既に上映され、さらに今年8月には中国で、日本と同じタイミングで上映されます。
―― 反響はいかがでしょう?
ムーア 日本の皆さんはアイルランドの民話に興味を持ってくださる方が多いような気がします。確かに民話も大事なテーマではありますが、一旦、ご覧いただくと、どこにでもある家族の物語がテーマになっていることがお分かりいただけると思いますよ。
各国の観客の反応として興味深かったのは、親御さんは感動して涙を流す一方で、お子さん方は歌ったり踊ったりするキャラクターを見て「わーっ」と声を挙げて笑っているんですよね(笑)。確かに僕が小さかったころ、『E.T.』を見たときにすごく面白かった。ふと横を見たら、隣で母親が泣いていたのがとても不思議だったという記憶があります。