第87回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされ、第28回ヨーロピアン・フィルム・アワードにて長編アニメ賞を受賞した映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が、8月20日(土)に日本でも公開されます。制作したのが“ポスト・スタジオジブリ”と本国アイルランドで称される制作会社“カートゥーン・サルーン”。この作品の監督であるトム・ムーアさんと、日本語吹き替え版にベン役の声優として出演する本上まなみさんの特別対談を単独取材しました。お二人がそれぞれの家族に対する思いを交えながら、この映画を通して伝えたいメッセージを語ります。

『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』トム・ムーア監督と、ベン役の声優として出演する本上まなみさん
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』トム・ムーア監督と、ベン役の声優として出演する本上まなみさん

「親が子を思うよりも深く、子どもは親のことを思っているのかもしれない」

日経DUAL編集部 本上さんとムーア監督が会われるのは今日が初めてだと伺っています。本上さん、映画をご覧になってのご感想とベン役を引き受けられた心境について、ぜひお聞かせください。

本上さん(以下、敬称略) この映画を最初に見たとき、私が小さかったころ、祖母に昔話を話してもらったことを思い出しました。祖母は「何かお話を聞かせて」と頼むと色々な昔話や民話を教えてくれたんです。あのときのような、親密で穏やかで本当に幸せなひとときの記憶が蘇ってきました。

 映画を見終わってから、「そんな情景を思い出したのはどうしてかな」とずっと考えていたんです。『ソング・オブ・ザ・シー』の舞台であるアイルランドは、私はまだ行ったことがない国ですが、海に囲まれている島という意味では日本にも通じる部分があるのではないかと思います。映画の中で話を紐解いてくれるナレーター役の声を聞きながら、なんだか本当に自分が聞いていた昔話を思い出して、懐かしいような気持ちになりました。

ムーア監督(以下、敬称略) 素敵な感想ですね。

本上 昔話を教えてくれたのは私の母方の祖母。母の田舎は山形なんですね。山形の海は黒いので、私は黒い海に親しみを感じていたんです。この映画で描かれる海と同じ色をしていたのが気に入りました。それに、私は動物が大好きなのでアザラシ達がいきいきと泳いでいる姿がとても可愛いなと思いました。こういう生き物達が住んでいる海に対する憧れがあったので、ベンの妹がアザラシ達と一緒に自由に泳ぎ回る映像を見て、羨ましく、自分も彼女になったような気持ちで一緒に海の中を楽しむことができました。

 また、私が今回演じさせていただく少年ベンにはお母さんの記憶があるけれども、妹にはお母さんの記憶がない。でも、お母さんの記憶がない妹はお母さんと同じく、(アザラシの妖精)「セルキー」の特徴を受け継いでいる。そんなことから、本当に何か母と子のつながりというものをすごく感じました。

 私にも子どもが2人います。子ども達を見ていると「あ、私の性格と似ている」と感じたり、日々の生活の中でハッと気づかされたりすることがたくさんある。逆に自分の母の行動を見ていて「あ、私も母にすごく近いものを持っている」とか、「私は父親のこういう性格を受け継いでいるんだな」とかドキッとするようなことを普段感じていたりもする。そういう意味でも、この物語は親近感を持って見ることができました。どちらかというと、私はこの映画を親の視点というより、子どもの視点で見ていたような気がします。特にベンがお母さんを慕う心の内だったりとかが、非常に切なく胸に響きました。

 親は心から子どものことを思っています。
 でも、もしかしたら子どもが親を思う気持ちのほうがより強いのかな
、なんて感じたりもしましたね。

ベンの妹・シアーシャ(6歳)は、誰に教わったわけでもなく自らセルキーのコートを着て海へ入り、アザラシ達と自在に泳ぎはじめる
ベンの妹・シアーシャ(6歳)は、誰に教わったわけでもなく自らセルキーのコートを着て海へ入り、アザラシ達と自在に泳ぎはじめる