子ども達の無鉄砲な行動には、事態を好転させる力がある

―― この映画を見る親達へのメッセージはありますか?

ムーア 僕としては、先ほどお話ししたことも子ども達に向けてお話ししたわけではないんです。家族の絆やきょうだいの成長、子どもの気持ちなどは子どもから大人まで理解できる部分ではないでしょうか。僕が目指している映画というのは、子どもだけのものでもなく、誰が見ても共感していただけるような物語です。

 この作品に出てくる大人達、つまり父親もおばあちゃんも、先ほど言ったような“失ったもの”がある。その悲しみをどう乗り越えるかというやり方が個々で違うんです。おばあちゃんのほうは自分の苦しみを全てガラス瓶に閉じ込めて蓋をし、「こうすれば子ども達のためになるのよ」と考える。お父さんのほうはまるで石のように自分の気持ちを固く閉ざすことによって何とか子ども達を守っていこうとする。その大人達の様子をベンがぶち壊し、家族全体をガタガタにしてしまう。でも、それが大人の心をも動かし、最終的に大人の側を変えるきっかけにもなる。そういう物語です。

―― 確かに、子どもが何かをやろうとしているときに大人は「だめ」と言ってしまいがちです。でも、子どもは大人がどんなに止めてもやりたいことを勝手にやってしまう。結果的にその子どもの無鉄砲な行動のおかげで物事が丸く収まるなんてことは、日常生活の中にもよくあるような気がします。本上さんも家庭生活の中で、お子さんに救われたり、大事なことに気づかせてもらったりすることはありますか?

本上 たくさんあります。例えば、大人同士、すごく深刻な話をしなければいけないときや、何か意見を戦わせなければいけないような場面であっても、子どもがそこに一人入るだけですごくユーモアにあふれる時間になったりします。

 それに、親は「子どもを導かなければならない」という思いで色々アドバイスをしてしまいますが、「もしかしたら今は変にアドバイスをするよりも、思うようにやらせてみたほうがいいかもしれない」とふと思って放っておくと、子どもってでたらめなんだけれども意外と自分の道を見つけ出してのびのびと困難を乗り越えたりします。

 あと、わが家はいつも賑やかでうるさいのですが、うるさくてご近所にご迷惑だろうなと思っていても、子どもがニコニコとしていると周りの皆さんも「まあしょうがないか」と笑ってくれたりする。そんな局面は非常に多いと思います。

 親と子は上下の関係ではないんですよね。子どもが親を助ける瞬間もたくさんある。私としては、そこに気づく余裕を持ちたいな、と思ったりしますね。

神秘的なシーン。物語は予想だにしない方向に展開していく。子どもでなくてもドキドキしてしまうはず
神秘的なシーン。物語は予想だにしない方向に展開していく。子どもでなくてもドキドキしてしまうはず

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後編に続きます。

トム・ムーア
1977年、北アイルランド・ニューリー生まれ。ダブリンのバリーファーモット・カレッジでアニメを学び、99年にポール・ヤングらと共にアニメーションスタジオ兼制作会社カートゥーン・サルーンを設立。初のテレビシリーズとなった「Skunk FU!」(2007年)はアイルランドで映画・テレビ作品に贈られる賞として最高権威のIFTAを受賞し、BCC、Cartoon Networkなど世界各国のテレビ局で放送された。初の長編映画となる『ブレンダンとケルズの秘密』(日本未公開)は、2010年アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネート。本作品は監督2作品目となる。

本上まなみ
1975年生まれ。女優としてテレビドラマ、映画、CMに多数出演。また「スッキリ!!」(NTV)では金曜日のコメンテーター、「助けて!きわめびと」(NHK総合)ではナレーター、「本上まなみ もうひとつの京都」(MBSラジオ)ではパーソナリティーを務めるなど、多岐にわたって活躍中。リリー・フランキー原作のアニメ「おでんくん」および「がんばれ!おでんくん」では、主人公のおでんくん役の声優を担当。本作品は2度目の声優出演となる。近著には7冊目のエッセイ『落としぶたと鍋つかみ』(朝日新聞出版)を刊行。映画出演作、多数。

「忘れないで。母さんはあなたのことが大好き。ずっと」
小さな島の灯台から始まる、幼い兄妹の大冒険!
アイルランド神話の壮大な物語の先に、二人が選んだ未来とは――。
圧倒的な映像美で紡ぐ、青く澄んだ美しい珠玉の感動作。

『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
監督:トム・ムーア
吹き替え版キャスト:ベン役 本上まなみ、父コナー役 リリー・フランキー、母ブロナー役 中納良恵(EGO-WRAPPIN')
出演:デヴィッド・ロウル、ブレンダン・グリーソン、リサ・ハニガン、ルーシー・オコンネル
脚本:ウィル・コリンズ
アートディレクター&プロダクションデザイン:エイドリアン・ミリガウ

音楽:ブリュノ・クレ、KiLA

2014年/93分/アイルランド・ルクセンブルク・ベルギー・フランス・デンマーク合作/カラー/ビスタサイズ/DCP/5.1ch/原題:SONG OF THE SEA /日本語字幕:山内直子・高崎文子

©Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Nørlum

提供:チャイルド・フィルム、ミラクルヴォイス、ミッドシップ
配給:チャイルド・フィルム、ミラクルヴォイス
宣伝:ミラクルヴォイス
後援:アイルランド大使館

2016年8月20日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA他全国公開!

http://songofthesea.jp/

(取材・文/日経DUAL 小田舞子、撮影/稲垣純也)