日本のユーザーが増えている理由も同様でしょうか?

『小学生からはじめるわくわくプログラミング』発行記念イベントにて(写真/都築雅人)
『小学生からはじめるわくわくプログラミング』発行記念イベントにて(写真/都築雅人)

 世界の動きが日本にも伝わってきているので、教育関係者や保護者の間でプログラミング教育熱が高まっているといえるだろう。

 加えて、政府のIT政策の指針となる新戦略「世界最先端IT国家創造宣言」の影響も大きいと思われる。平成26年6月に改定された版においては、初等・中等段階におけるプログラミング教育の充実などがうたわれており、その工程表では2019年から全国展開することが予定されている(注:文部科学省は2016年6月、小学校におけるコンピューターのプログラミング教育を2020年度から必修化する方針を決めた)。それに先駆けるかたちで、平成24年度からは中学校の技術・家庭科において「プログラムによる計測・制御」が必履修単元に組み込まれている。

 こうしたプログラミング教育熱や政策の動きを受けて、子ども向けのワークショップや教室などでScratchを使ったプログラミングを取り入れる機会が増えてきている。それが、日本でのユーザー数の増加につながっているのだろう。総務省の調査では、教室・講座で利用されているプログラミング言語の36%を占め、最大のシェアとなっている。

 以上は全般的な動きだが、個別に見ていくと、日本各地でScratchを使ってプログラミングのワークショップを開催するという動きは以前からあった。それらに加えて、近年の目立った活動を挙げると、NPO法人CANVASがGoogleの支援を受けて行ったPEG(Programming Education Gathering)がある(関連記事「5000台のRaspberry Piを提供するプログラミング学習支援活動『PEG』が本格始動」、「Raspberry Piをなぜ子どもたちに与えるのか」)。

 PEGは、小型PCボードのRaspberry Piを5000台提供した運動とみなされることもあるが、5000台提供しただけではなく、プログラミングとものづくりに関する指導者の育成およびコミュニティの支援も重要な目的だ。だからこそ「Gathering」(集う)という言葉を活動名に入れている。実際、日本各地のコミュニティ活動が活発化しており、その状況はPEGのサイトから見ることができる。

 もう一つ、この1~2年で目立った活動ということでは、CoderDojo(コーダー道場)がある。CoderDojoはアイルランド発祥の、小中学生向けプログラミング道場だ。ソフトウエア技術者たちが、自分たちの技術を子どもたちに教えようとして始まった運動であり、道場という言葉が使われているように、寺子屋的な活動をボランティアで展開している活動である。このCoderDojoでも、プログラミングツールの一つとしてScratchが使われている。

 このトレンドは当分続く見通しでしょうか?

 そうだ。先ほど伝えたように、製造業から情報産業、さらにはIoTに代表される新しいものづくりへの移行というトレンドはゆるがないだろう。この認識がより広まるにつれて、Scratchなどを使ったプログラミング教育はいっそう普及していくものと思われる。

来日したミッチェル・レズニック教授(左)と一緒に
来日したミッチェル・レズニック教授(左)と一緒に

 ご自身の活動がより大きな流れになりつつあるということでしょうか?

 その認識は違う。Scratchを使った活動を厳密に捉えると受動的な「教育」と能動的な「学習」に分けることができ、両者は異なるためだ。

 一般的な傾向として、Scratchを使った活動を大人は教育と捉える。しかし、体験する子どもたちのほとんどは勉強とは捉えていない。Scratchを開発した米MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボのミッチェル・レズニック教授が常々言っているのは、Scratchは職業訓練用ではなく、新しい表現手段や学びのためのものであるということ。。

 つまり、Scratchで遊ぶことが、新しい表現手段や学びにつながる。この意味で、Scratchによる活動を子供たちは遊びと思っていて、一方の保護者や教育者がそれを勉強だと思っているのは、実は矛盾していない。しかし、教えて育てる「教育」と捉えるのと、学んで習う「学習」と捉えるのとでは、Scratchの使い方が異なる。