少子高齢化、人権、子育て支援など、今日本の社会が直面している諸問題について、NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが各界の専門家や政治家に切り込む本連載。今回は、前・自民党政調会長で、このたびの内閣改造で防衛相に就任した稲田朋美さんをインタビューしました。

※インタビューは2016年6月に実施。この記事の内容は当時の状況や情報に基づいています。

待機児童対策は年末までにしっかりやる

駒崎弘樹さん(以下、敬称略) 前回の記事では、LGBT、子どもの貧困のテーマについて伺いました。さて、待機児童問題も読者の関心が高いテーマです。緊急対策として安倍政権が機動的に動いてくれたことはありがたいと思います。保育士給与の引き上げも検討し、2%引き上げに加えてベテラン保育士には4万円程度加算と、突っ込んだ対策だったのではと思います。しかし、気になるのが消費税増税延期です。これによって、保育士給与の引き上げが後ろ倒しになってしまうのではないか? という懸念の声が聞かれます

稲田朋美さん(以下、敬称略) それはないです。

駒崎 ないですか。

稲田 おっしゃっている給与2%増というのは、実は安倍政権になってからすでに7%改善したうえでの増加です。この財源は消費税増税によって確保しようとしていたのではなく、ニッポン一億総活躍プランにすでに組み込まれていたもので、すでに50万人分の受け皿は確保しています。運営費は年間1000億円かかりますが、安倍政権でやってきた社会保障改革による社会保障支出の減少や、景気回復による失業保険支払いなどの減少分から確保できます。いずれにせよ、保育士待遇も含めて待機児童対策は年末までにしっかりやるという優先順位はついています

駒崎 待機児童対策は大丈夫だと。安心しました。

 もう一つ、規制緩和の促進もキーワードだと思います。僕も運営している小規模保育は1年で1655園に激増して、翌年度である2016年度では2429園と、成長率46%と激増しています。十分に安全な条件を満たしたうえで、これまで保育園を開設できなかった場所にも開設できるようになったのはとても喜ばしいことなのですが、惜しいことに対象年齢が0~2歳と限定的です。これは当初の厚労省のもくろみが「3歳以降は幼稚園が受け入れてくれるだろう」というものだったことによるのですが、フタを開けてみると幼保の連携はほとんど進んでいません。幼稚園側がやりたいのはやはり「教育」で、保育を補う考えはあまりないようなのです。すると何が起きているかというと、小規模保育に預けられても3歳以降の預け先がない「3歳の壁」ができ始めています

 そこで僕が提案したいのは、シンプルに「小規模保育も5歳までOK」に変えるというアイデアです。法改正が必要になるという理由で積極的な反応が得られていないのですが、状況は待ったなしであり、現実的に大規模保育所を都心でこれ以上増やすのには限界があります。最近も杉並区で住民の反対運動がありました。 

稲田 待機児童が大きな社会問題になったとき、駒崎さんがここに来て概況を解説してくださいましたね。具体的提言もいくつかくださって、党の提言にも組み込ませてもらいました。その一つが土曜保育の共同運営化ですね。

駒崎 はい。土曜保育は各保育所で一定のニーズはあるもののウイークデーに比べると規模が縮小するので、近隣の保育所が当番制で持ち回るなどの共同運営をするという提案でした。実現に動いていただき、めちゃめちゃ助かります。

稲田 よかったです。保育士さんが欲しているのは報酬だけではないんですよね。大変な労働をこなすための休日もしっかり確保されたい。ところで、先ほどおっしゃった小規模保育の年齢の規定ですが、現状ではできていないんですね。

駒崎 やってくださったのは人数制限の緩和でして。19人から22人まで広げてくださいました。

稲田 年齢は?

駒崎 年齢は今のところまだです。

稲田 もうちょっと頑張らないといけませんね。ただ、保育の問題は緊急対策的なものと恒久的に継続していくものと二本柱で考えていかなければいけないとも思っています。

駒崎 おっしゃる通りですね。

稲田 例えば、今は「0歳児保育の受け皿を!」と強い要請がありますが、なぜ0歳児の待機児童が多いかというと、「0歳から預けないと保育園に入りづらいから」という状況があるからですよね。もし1歳児からでも十分に受け皿が整備されたとしたら、もっとゆっくり育休を取って自宅保育ができる人が増えるはずです。反対に、一刻も早く働いて収入を得なければ生活できない方々には、すぐにでも入っていただける体制を整えなければ。メリハリつけて対策を取っていくことが大事だと考えています。

 3歳児以降の保育については、党内で「やはり集団保育がいいんじゃないか」という意見を出す人もいました。これから議論の集約が必要です。

駒崎 0~2歳児、3~5歳児と多年齢を合同で保育する縦割り方式はヨーロッパなどでも採り入れられています。園全体で20~30人程度と小規模であることも特徴で、必ずしも3歳以降は大集団でないといけないわけではありません。一方で、日本で伝統的に行われてきたのは、年齢ごとに区切った横割り方式。それぞれに良さがあるといわれています。

稲田 そう、選択肢がいくつかあったほうがいいと思います。固定観念を取り払って、多様な保育から選べるというのが本当の豊かな保育だと思います。現状の日本の保育は、選択肢以前のレベルですよね。ポイント稼いで入るのがやっと…という。ですから、保育の義務教育化も視野に入れるべきだと思いますし、厚労省・文科省の縦割り管理ではない多様な保育のあり方を考えるときを迎えていますね。