「息子が泣いていても抱っこしない。見かねて、ガラスをドンドン叩いた」

Aさん 入園9日目は朝8時50分に登園しましたが、9時15分を過ぎてもずっと泣いていました。すぐ横に座っていた先生はかまってくれず、息子はカウンター近くにいる先生達のところにハイハイして行きました。誰一人としてかまってくれず、元にいた場所に戻り、また目に手をあてて泣いていました。見かねて、ガラス越しにドンドンと叩いて、先生を呼びました。反応がないので携帯で先生に電話して「眠いかもしれないので寝かせてあげてください」と頼みました。

 泣いている子どもを抱っこする……些細なことに思えるかもしれませんが、これは安全な保育を考える上で重要です。ここからは、Aさんの代理人を務める寺町東子(とうこ)・弁護士も交えてインタビューを続けます。寺町弁護士は保育園や学校で起きた事故の問題に詳しく、関連の裁判を数多く手掛けています。

―― 保育園の先生が、泣いている子どもを抱っこしないのはなぜでしょうか? 人手が不足していたわけでもなかったようです。

寺町弁護士(以下、寺町) 現場のモチベーションの問題か、マネジメントの問題か、背景と原因を調べる必要があると思います。1歳児が泣いているとき、カタコトで指さししている方向を見て、気持ちを読み取り、言語化してあげると満足して泣き止むことがあります。

 「そうだね、●●したいんだよね」と大人が口に出して言ってあげることで、子どもは気持ちを受け止めてもらえた、と納得する。小さな子どもが泣き止まないのは、子どもの性格もあるかもしれませんが、大人の受け止め方がうまくない、応答的な関わりができていない問題が大きいです。

Aさん 通信教育だけで保育士資格を取ることができてしまう現状も問題だと思います。息子を預けた園の園長先生は、事務職をしていたようで、現場経験がなかったそうです。働き始めて1年目の先生が2人。日雇いのような非常勤の先生が多く、子どもに対応していたと思います。

 息子が心肺停止になった日、寝かしつけを担当していたのは、2月と3月にそれぞれ数回しか出勤していない先生でした。これでは、子どもとの間に愛着が形成されません。泣いているときに「○○くん、どうしたのかな?」とは思えず、別室でうつぶせに寝かせるという園長の指示に反論することもできないのではないでしょうか。保育経験の豊かな先生がいてくれたら、こうはならなかったと思います。