全国に「妊娠を『契機』とした解雇や退職強要は違法」という通達が出された

小酒部 本当にその通りです。司法が動いたので、今度は行政・厚労省が動き、全国の労働局に通達を出しました。今までは「妊娠を『理由』とした解雇や退職強要は違法だ」となっていたため、会社側は「妊娠が理由じゃない。能力不足だから解雇するのだ」「そもそも業績が悪化しているからだ」と妊娠が『理由』であるという可能性を断ち切っていたんです。

 でも通達が出たことによって、「妊娠を『契機』とした解雇や退職強要は違法」になった。「妊娠を挟んだら、妊娠が理由だと見なしますよ」「タイミングで決めますよ」というふうに通達を出してくれた。このことによって、マタハラという概念が広がり、全国の労働局に声が上がったんですよ。で、全国の労働局に声が上がったことによって、今回の法改正につながる、と。

―― 影響力の大きさを感じますね。歴史が変わる、本当に重要な一歩です。その法改正についても詳しく教えていただけますか?

小酒部 今回、法改正されたのは、育児・介護休業法と均等法の2つです。

 育介法は育児法のほうに限りますが、非正規が育休を取得する要件が今は3つあり、その要件はかなり高い壁でした。この要件が緩和されるというのが大きなポイントですね(2017年1月1日から、緩和された要件で施行)。

 現在のこの3つの要件を簡単に言うと、「① 一年以上勤務していること」「② 今後も雇用の継続が見込まれること」「③ 子が2歳になるまでに、雇用が更新されないことが明らかでないこと」。これは非正規労働者にとって、本当に難しい条件です。

 私達マタハラNetは、非正規の育休緩和において要望書や署名を提出し記者会見を行うなど、アドボカシー活動を行ってきました。活動のターゲットは育児法に絞っていましたが、育児法で要件が緩和されれば自動的に介護法も緩和されるということを狙っていました。狙い通り、介護法も緩和されます。ここで知っていただきたいのが、マタハラを防止すればケアハラ(介護休を取得する際に阻害されるなどの行為)も防止していくことができる、という点です。

―― それが緩和される、と。

小酒部 はい。緩和されて、①は残りますが、②は無くなります。雇用の見込みという条件はあまりに不確定ですから。③が、今まで2年だったのが今の素案だと1年半になります。私は③も削除してもらいたいのですが、せめて、育休の原則は1年なので、1年半ではなくて、1年にしてほしいとお願いしていました。

―― 均等法についてはいかがでしょう?

小酒部 現在(2016年7月現在)、マタハラには法的定義がありません。今回の法改正で法的定義が決まってくると思われます。また、均等法には妊娠を理由にした解雇や退職強要は違法であると定められていますが、今まではこの主体を「雇用主」に限っていました。

 つまり、雇用主(=人事労務の決定権者や経営者)による解雇や退職強要は違法にできますが、直属の上司や同僚レベルのマタハラは問題にできなかった。ここもマタハラ防止義務化に伴って、上司や同僚が行ったマタハラ行為に関して雇用主は監督義務と責任を負うようになると思われます。