マタハラNetを「怒らない」団体にしようと決めた理由

―― 小酒部さんは強いですね。時代が小酒部さんを必要とした理由が分かるような気がします。では、この運命的なマタハラNetですが、設立時のことについて教えていただけますか?

小酒部 まずは数人の被害者と団体の趣旨に賛同してくれたメンバーでマタハラNetを設立しました。そして、設立メンバーと相談して、「怒らない」団体にしようと決めました。マタハラ、ハラスメントなどというテーマを掲げると、ただでさえ攻撃的な団体と思われてしまいます。怒って声高に主張するのではなく、「議論のできる場、話し合いのできる場、それから中立な立場であること」を目指したのです。例えば、政治で言えばどこの党派にも属さない、中立な立場でいると。

 「やっていることには賛成なんだけど、デモ行進に参加して『反対だ!』と積極的に声を上げるまでではない」という人達が世間の大半でしょうから、サイレントマジョリティーの声を拾えるよう、SNSを使った署名活動を実施しました。

 それと、立ち上げ時から「社会のメーンストリームを歩いていきたい」と思っていました。メーンストリームを歩くことを具体的に言うと、政府の有識者会議に呼ばれるとか、安倍首相と登壇するとかということを指します。怒って過激な行動をしてしまうと、政府に呼んでもらえなくなります。そうすると、届けなければいけない意見も届けることができなくなる。だから「怒らない」をモットーにしようと思いましたね。

 「マタハラ反対」と言うのは簡単ですが、ではどうすればいいのか、という解決策まで提示していける団体になりたかったんです。そこまでやって本物だと。

 だから、立ち上げたときの目標は、いつか安倍首相と並んで立つこと、そして、直接政府に声を届けることだったんです。まずはそこを目指すぞ、と。予想外だったのが、安倍首相と並んで立つまでがものすごく早かった。これも運命的だったと思います。

 2014年9月に「マタハラ裁判」の最高裁の弁論が開かれました。マタハラNet立ち上げが1年でも遅かったら、最高裁に出合えていないわけですよ。この裁判はマタハラが認知される大きなきっかけの1つとなりました。この裁判を起こした広島の女性とは、ずっとメールでやり取りをしていますが、彼女はマタハラNetの運命を変えた一人ですね(*)。最高裁まで一人で戦うなんてとてもできません。裁判が大変なだけでなく、彼女は猛烈な人格攻撃を受けていますからね。

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* 次回に続きます。「マタハラ裁判」を起こした女性についても、詳しく紹介します。

●「マタハラNet」とは?

NPO法人マタニティハラスメント対策ネットワーク(通称:マタハラNet)。2014年7月に設立したマタハラ被害者支援団体。少子高齢化が進み労働人口が減っていくこれからの日本で、育児や介護、病気やけがなど様々な状況の人達が働き続けられる社会の実現のため活動している。http://www.mataharanet.org/

●連載名にある「ファーストペンギン」とは?

野生のペンギンは群れで暮らします。餌を求めて海に飛び込むとき、最初の一羽はまさに命がけです。もしかすると海中にはお腹を空かせたシャチがいるかもしれません。一羽目がもし食べられてしまったら、残りのペンギンはその場所には飛び込まないのです。小酒部さんは言います。「今、マタハラを受けている女性達は“ファーストペンギン”だとも言えます。キャリアと育児の両方を求めて、理解の無い企業と戦い、時に自分の身を傷つけてまでも、後進の道を切り開いているのです」。「誰もがキャリアと子育てを両立できる社会をつくりたい」。彼女達の思いを連載名に込めました。 

(ライター/水野宏信、撮影/村上 岳)