マタハラNet代表・小酒部さやかさんが企業を突撃取材する連載「小酒部さやかの突撃インタビュー “マタハラはなくて当たり前”の企業はココが違う!」。その連載では「マタハラの実態」についてはあえて触れず、マタハラを許さない企業の工夫について取り上げてきました。さて、こちらの新連載では、マタハラの実態に正面から切り込みます。つらい過去を振り返り、詳しい話を聞かせてくださる取材相手のトップバッターは、小酒部さん自身です。今年1月に『マタハラ問題』(ちくま新書)を出版したばかりの小酒部さんが、自身が体験したマタハラについて詳しく語ります。3本に分けてお送りします。

妊娠を理由にした解雇や退職強要は違法

小酒部さやかさん
小酒部さやかさん

日経DUAL編集部 書籍を拝読し、大変ショックを受けました。小酒部さんがマタハラを受けたことは知っていましたが、本に書かれていたような詳細までは知りませんでした。一般的にも「マタハラという言葉は知っている。でも、実際はその深刻さを知らない」という方は多いと思います。おつらいと思いますが、DUAL読者に向けて、改めてご体験をお話しいただきたいと思います。

小酒部さん(以下、敬称略) 今だから平静を取り戻していますが、今回の書籍の原稿を書く作業はすごく苦しかったです。原稿はマタハラNetのブログにアップしたものを基にしたのですが、ブログ用に初めて文字に起こしたときも苦しかった。私が行った裁判は労働審判で、証拠として録音を書き起こすのですが、それも同様につらかった。私と同じように「体験を語ること、思い出すこと」さえつらいという人はたくさんいると思います。

 男女雇用機会均等法で、妊娠を理由にした解雇や退職強要は違法という法律があり、それを犯すマタハラは、当然、不法行為になります。流産や早産に発展する危険性があることからも、他のハラスメントとは一線を画す深刻さをもっていると思っています。深刻なハラスメントだということもあって、よく人に言われるのが、「マタハラ」という言葉が問題をチープな印象にしてしまう、損になるのではないか、ということでした。

 それは分かっていましたが、私は言葉の浸透速度を取りたかった。とにかく、一刻も早く、マタハラに対する問題意識を社会に浸透させなくてはいけないと思った。それぐらい、怒りが込み上げていたし、同じように苦しんでいる人がいると思うと、居ても立ってもいられなかったんです。

「妊娠したら無事に出産できるものだ」と思い込んでいた

―― では、そのマタハラ体験をお聞かせください。何があったのでしょう?

小酒部 私は2回の流産を経験しています。2回の流産手術の負担で、あれから3~4年近く経った今も妊娠できず、不妊治療を続けています。

 当時担当していたのは、顧客向けの季刊誌のディレクションの仕事でした。記事内容や紙面をリニューアルするタイミングで、最初の妊娠が分かりました。納期を外したら雑誌は発行できず、それは絶対に許されないことです。私だけが仕事内容を把握していた状態だったので、誰を頼ることもできませんでした。

 私がバカだったのは「妊娠したら無事に出産できるものだ」と思い込んでいたことです。自分が流産するなんて思ってもみず、毎日、深夜残業をしているうちに、おなかはどんどん張っていく。医師から「妊娠初期は子宮が大きくなるから下腹部が張るもの」と言われていたので、こうやって痛くなるのが普通だと思っていました。それどころじゃない。「仕事の納期をきちんと守らなきゃ」と意識がそこにばかり向いていました。本当にバカだったんです。

 「妊娠はまだ隠しておかなきゃ。安定期になったら言おう」……。勝手にそう思っていたんです。周りに迷惑は掛けられないと思い込んで自分で自分にマタハラをしていた。そして、あるとき、おなかに激痛が走り、流産したわけです。おなかが張っていたのは、異常サインだった。それに気づくことができなかった。