壊れる物を使わせることで大事に扱うことを学ぶ

―― 伊藤さんが子育てに関して心がけていることは何ですか。

伊藤 「壊れる物を使わせよう」です。食器も壊れる物を使わせてきました。陶器は落とせば割れますよね。割れにくいプラスチックとかメラミンの食器も子ども用で色々ありますが、そういうものではなく、陶器や磁器で食べさせたいと思ってきました。

 例えば、息子がすごく気に入っていたのは、このおままごと用のティーセット。夫が海外に取材に行ったときに息子のおみやげに買ってきてくれたもので、本物の陶器です。息子はこのポットで三年番茶をいれて飲むのが大好きでした。

熊のイラストのついた愛らしいティーポットとティーカップなどのセットは、小さいけれど本物の陶器。右は息子が愛用した桜の木のお椀とスプーン
熊のイラストのついた愛らしいティーポットとティーカップなどのセットは、小さいけれど本物の陶器。右は息子が愛用した桜の木のお椀とスプーン

 蓋を落とさないように、落としたら割れてしまうからね、と使い方を教えると、小さい手で一生懸命蓋を押さえて使っていました。壊さないように物を大事にする、壊れる物を壊さないようにするためにはどう扱ったらいいのかということを学ばせたかったんです。

 食器に関しては、息子の体の負担にならないものということも、もちろん考えました。息子の離乳食が始まったのが1歳過ぎでしたが、そのときはお椀と木のスプーンを特注で作ってもらったんです。天然ゴムにもアレルギーがあって塗りのものは使えないかもしれないので、桜の木をくりぬき、薄くエゴマ油を塗ってもらったんです。スプーンも息子が握りやすいような大きさと形に作ってもらいました。そんなふうにしてできるだけ自然の物、息子の体の負担にならない物を選んできました。

―― 木のお椀も、落とせば割れますしね。割れたら危ないからと、つい先回りして危なくないような環境を整えようとしてしまいますが、粗末に扱えば壊れるのだと教えることも大事なのですね。

自然のおいしさを生かした食べ物をみんなで楽しみたい

伊藤 もうひとつは、「味わう舌」を子ども達には持っていてほしいなと思っています。以前に聞いた料理人の方の話では、添加物やうまみ調味料を使うのをやめたらお客さんから「味が落ちた」と言われたそうです。保存料や添加物は一切使わずに頑張っている和菓子職人の方の話では、一日たてば大福は硬くなるというと「じゃあいらない」と帰ってしまうお客さんがいる。そんな話を聞くと、食べる側の私達が添加物や人工的な調味料の味、そして便利さに慣れ切ってしまっていて、「味わう舌」が衰えているのかもしれないという危機感も覚えます。

 舌って財産ですよね。だから子ども達にはちゃんとした野菜の味が分かる舌を育ててあげたい。私の理想は、体にいい物、人工的に作り上げた食材ではなくて自然のおいしさを生かした食べ物をみんなで楽しめたらいいなあということです。

 息子が給食を食べられない日に持参するお弁当も、お友達に分けてあげて一緒に食べてもらいたいくらいです。もちろんそういうことをしないルールなのは分かっていますけれどもね。今日作ったようなグルテンフリーのお菓子も、みんなに食べてもらえるといいのにね、と子ども達といつも話しているんです。

―― 確かに、この白花豆マドレーヌも米粉クッキーも、一口食べると、グルテンフリーとかアレルギーとかそういうことを忘れてしまう。ストレートにおいしいからです。こういう誰もが楽しめるおいしさ、これが伊藤さんの作るおやつの醍醐味ですね。

伊藤ミホ
東京都在住。外資系総合商社勤務を経て、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジのデザイン学部修士課程に学ぶ。帰国後、環境と健康をテーマにした雑誌の編集に携わる。長男に重度の食物アレルギー、アトピー、ぜんそくがあったため、小麦・卵・乳製品・大豆・ナッツを使わないお菓子や料理を工夫しながら作るようになる。東日本大震災を機に、被災地に義援金を送るためのアレルギー対応料理のレシピを教える活動を始める。退職後、アレルギー対応料理教室「コメコメ・キッチン」を主宰。「からだにやさしく、おいしい食」を伝える活動をしている。著書に『家族みんなを元気にするグルテンフリーレシピ』(清流出版)、『寒天を使って、サクサクおいしい! 米粉のクッキーとタルト』(世界文化社)がある。

(文/山田美紀 撮影/坂齊清)