おやつは友達との連帯感も味わう時間でもある

―― 調味料にも気を配る必要があるのですよね?

伊藤 家計のエンゲル係数が高くて大変でした(笑)。大豆も小麦もダメだったときは、キヌアとかヒエとかキビのお醤油を使い、落ち着いてきてからはそら豆醤油にしています。おいしいんですよ、本醸造のそら豆醤油。日本を見渡してみると、大根もそうですし、調味料にしても、その地域独特の豊かな食文化があります。

 今はすべて単一化されてしまっている気がします。もともとその土地で生きてきた人達が工夫して作ったり食べたりしてきた野菜が、売れないからという理由で作られなくなっちゃったり、郷土料理が忘れられてしまったり、そういう残念なことになっているのを「何か息子が食べられるものはないかなあ」と思いながら調べていったという感じです。

―― なんだか楽しそうにも聞こえますね。

リビングの壁には恵蘭君の伸びやかな絵と、美來(みら)ちゃんが生まれて初めて描いた絵が飾られてある。恵蘭君はママの近刊のイラストレーターとしても大活躍
リビングの壁には恵蘭君の伸びやかな絵と、美來(みら)ちゃんが生まれて初めて描いた絵が飾られてある。恵蘭君はママの近刊のイラストレーターとしても大活躍

伊藤 実際、楽しいんですよね、昔の人が色々考えて作ってきた食べ物や食材を知ることって。息子は一時期、お米にもアレルギーがあったので、酒米を食べたこともありました。お米一つとっても、これほど食感とか食味にこだわっている国民もいないだろうなとつくづく思いました。

 そういった日本の食文化の奥深さを息子が身をもって教えてくれた気がします。当時はもちろん大変でしたが、振り返ってみると、本当にいい勉強をさせてもらったと思います。

―― 息子さんもそういった食の変遷を覚えているのでしょうか。

伊藤 どうなんでしょうね。食べられないものがたくさんあって、よく大根を食べていたことくらいは覚えているみたいで、だから今はあまり食べませんよ(笑)。今はもう大抵の食材を口に入れられるようになりました。もちろん頻度や量にはまだ気を使っていますが。

―― 大きくなるとアレルギー体質は改善していくものなのですね。

伊藤 そうですね。腸の粘膜からアレルゲンが入り、それが体液へと入っていってアレルギーがひどくなるわけですが、その粘膜の編み目の穴が、体の成長とともに小さく細かくなっていくようです。そうなっていくとアレルギーも緩和していくことが多いようですね。

 できるだけ自然なものを、そんなに手間をかけたものは作れませんが、手作りのものを食べさせてあげたいなと親としては思うんです。でも小学生になると、お友達と同じがよくて、ジャンクフードも食べたりしていますよ。たぶん麻薬的なおいしさがあるんでしょうね。

 それにおやつって、おなかを満たすことだけが目的なのではなく、友達との連帯感みたいなものを味わう時間でもあるでしょう? だから、友達と同じものが食べられないというのは、本人にとってはとてもつらいことだというのも、よく分かります。アレルギーのあるなしにかかわらず、一緒に食べられるお菓子があれば、皆で笑顔になれますよね

―― 次回は、米粉を使った白花豆とホワイトソルガムのマドレーヌを教わります。

伊藤ミホ
東京都在住。外資系総合商社勤務を経て、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジのデザイン学部修士課程に学ぶ。帰国後、環境と健康をテーマにした雑誌の編集に携わる。長男に重度の食物アレルギー、アトピー、ぜんそくがあったため、小麦・卵・乳製品・大豆・ナッツを使わないお菓子や料理を工夫しながら作るようになる。東日本大震災を機に、被災地に義援金を送るためのアレルギー対応料理のレシピを教える活動を始める。退職後、アレルギー対応料理教室「コメコメ・キッチン」を主宰。「からだにやさしく、おいしい食」を伝える活動をしている。著書に『家族みんなを元気にする グルテンフリーレシピ』(清流出版)、『寒天を使って、サクサクおいしい! 米粉のクッキーとタルト』(世界文化社)がある。

(文/山田美紀 撮影/坂齊清)