歌手・エッセイストで、最近『スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法』(朝日新聞出版刊)を出版したアグネス・チャンさんへのインタビュー、中編です。

 アグネスさんは、長男・和平(かずへい)さんを出産後、次男・昇平さんの出産間近なタイミングでスタンフォード大学大学院へ入学。教育学を学び子どもを最優先に考えたぶれない子育てで、3人をスタンフォード大に送り出し、今も新しい時代を切り開いています。3児を育てながらのDUALライフやいつまでも美しいその若さの秘訣、子どもの思春期やつらかった時期の乗り越え方など、気になるトピックスに日経DUAL羽生祥子編集長が迫ります。

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(上)アグネス・チャン「私は“教育ママ宣言”をします」

<プロフィール>
1955年香港生まれ。1972年に『ひなげしの花』で日本の歌手デビュー。上智大学国際学部を経てトロント大学(カナダ)へ編入学、社会児童心理学を学ぶ。1985年結婚。1989年9月、当時3歳の長男・和平さんを連れてスタンフォード大学に留学、同年11月に二男・昇平さん出産。1992年6月スタンフォード大学大学院教育学博士課程を修了。1994年に博士号が授与された。1996年香港にて三男・協平さん誕生。現在は芸能活動のほかエッセイスト、日本ユニセフ協会大使、ユニセフ・アジア親善大使、香港浸会大学特別教授など、世界を舞台に幅広く活躍している。

臨月でスタンフォード大へ行ってしまいました。帰る場所はない!

羽生編集長 アグネスさんご自身もお母さんになられてからスタンフォード大学大学院に留学されています。3人の息子さんをスタンフォード大に入れたというのももちろん偉業ですけど、まずお母さんご自身がスタンフォードに入っているということ自体、頭のいいご一家なんだというのが実証されているようです。

アグネス・チャンさん(以下、アグネス) 今振り返ってみると、本当に大胆なことをやったなぁと思います。だって、臨月だった33歳のとき、留学しに行ったんですから。9月末に学校が始まるのですが、二男の出産予定日が11月11日で、本当におなかが大きかったんです。我ながらよく行ったなぁと。ただ、私はやろうと思ったときにはすっかり行く気持ちになっちゃって、その後の大変さを考えていないんです(笑)。そういう性格なんですよね。

【主な内容】
●臨月でスタンフォード大へ行ってしまいました。帰る場所はない
●アメリカ人は、「楽」より「楽しい」を選ぶ
●子どもを「ジャッジ」しない。信じ切ること
●一人っ子は一番きついかも。2人目は楽。3人目は楽しい!
●1人出産でマイナス5歳! 私は3人だから15歳若返った
●嫌なことは話してためない、これが若さの秘訣

―― 大学院ですから、留学中は、レポートを書いたり、毎日毎日お勉強漬けですよね。

アグネス 勉強はすごく楽しかったんですよね。仕事はやれる範囲でやってはいたけれど、日本にいたときほどではなくて。思う存分、もう一度学生生活を楽しむっていう環境でした。不思議ですけど、「行かなきゃいけない」と思うと、学校って大したものでもない。でも、自分で選んで行った学校は別格、やっぱり母親になって社会人になって、当時の環境を全部いったん捨てて、色々な人に迷惑を掛けてきたんだからっていうことで、すごくありがたさを感じました。

アメリカ人は「楽(らく)」よりも「楽しい」を選ぶ

楽を求めるか、楽しさを求めるか。「私は、大変でも楽しい道を選びたい」
楽を求めるか、楽しさを求めるか。「私は、大変でも楽しい道を選びたい」

 子どもがいたから、人から優しさもたくさん受けて、日本とはまた全然違う子育て環境を体験できました。親ってこんなに大事にされるのかということにびっくり! 

 「よく産んだね」って言ってくれたり、「かわいいね」って言われたり。長男は特別そんなにかわいくはないんだけど。すっごくかわいい、かわいいと言われて、そのうちに本当にかわいいなと思いました(笑)。みんなで育てるとまではいかないけれど、アメリカでの体験にものすごく励まされ、自分の「親としての誇り」をつくってくれましたね。

 私と同じように学校へ行きながら子育てをしている人にたくさん出会い、女性の生き方の多様さも知りました。自分ではすごく自由だと思っていても、たくましい女性達ってたくさんいる。楽(らく)ではないんだけど、楽しそう。私がアメリカで出会った人達は、「楽」よりも大変だけど「楽しい」ことをいつも選んでいました。兼業主婦って、みんな大変ですよね。でもやっぱりどこかですごく輝いていて、どこか自信に満ちていて、すごくすてき。こういう生き方ってあるんだなって本当に思いました。

―― アグネスさんは日本の上智大学に在学していたときにも、カナダのトロント大へも留学されています。どんな経緯だったんでしょうか。

アグネス トロント大へは21歳のとき、編入して入ったんです。そのときは両親も健在だったし、父の勧めで行ったから不安はなかったですね。帰る所はあったし、失敗してもセーフティーネットがある。親の言うことを聞いて来たという感じで、自分の責任で行ったという感覚はありませんでした。17歳で日本に来たのが、既に留学でしたから。それまでは小学1年からずっと同じ台湾の学校で育ったので、初めての転校が日本のアメリカンスクールでした。友達が1人もいないところへ行って結構心配だったし、えーこれからどうするんだろって本気で思ったんですけど、何とかなりましたし。それもすごくいい体験で、自信につながったと思います。

―― いつでも新しいことに挑戦していくっていうお母さんの後ろ姿が、子どもへの何よりの教えというか。3人の息子さん達は「ママくらいすごくなりたい」って思っているかもしれないですよね。

アグネス 最近うれしかったのは、私が子ども達に「みんなすごいねーっ」と言っていたんですね。「こんなになるとは思わなかったな、よくやってるなぁ。君は15歳でアメリカの高校に行ったじゃない。それはすごいことだよね」と言ったら、長男が「ママこそすごいじゃないですか。ママこそ14歳でデビューして、17歳で日本へ行ったんじゃないですか」と返されて。だから、もしそれが少しでも彼らの励みになっていたら、今までやってきてよかったなと思いますね。彼らはフィアレスなんですね。恐れることなく、どんな環境でも何とかやっていける。それがどこからきた自信なのかは分からないけれど、本当にそう信じているんです。

―― 限りない愛情を注がれ、I LOVE YOUをシャワーのように浴びて「自分は愛されている」。そこから来るものでしょうか。