歌手・エッセイストで、最近『スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法』(朝日新聞出版刊)を出版したアグネス・チャンさんへのインタビュー、最終回です。
アグネスさんの教育法の原点は、1988年に世間で大論争を巻き起こした「アグネス論争」。当時、生まれたばかりの子どもを職場に連れてきたことがマスコミに大きく取り上げられ、「子育てと仕事の両立は欲張りだ」と批判されました。その後、スタンフォード大学で教育学を学び、子ども達に実践。子どもを最優先に考えたぶれない子育てで、3人をスタンフォード大に送り出し、今も新しい時代を切り開いています。いつも朗らかで優雅なイメージのアグネスさんですが、これまでのDUALライフで葛藤を抱えた時期はあったのでしょうか。つらかった時期の乗り越え方や子どもの思春期、そしてこれからの夢について、日経DUAL羽生祥子編集長がインタビューしました。
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これまでで一番つらかったのは「アグネス論争」でした
羽生編集長 いつも朗らかで苦労などしていないというようなイメージもあるかと思うのですが、お仕事は重責を担っています。3人のお子さんを育てながらの両立で、一番あの時がつらかったというのはいつのシーズンですか?
アグネス (少し考えて) アグネス論争のときかな。「子どもがかわいそう」とあんまり言われると、「やっぱり働いちゃいけないのかな」と不安になりましたし、「子どもが家に帰って母親がいないとは、なんてむごいことをするの」と言われると、「私がこの子をかわいそうな子にしちゃったのかな。大丈夫かな」と思ったりしたことはありました。
でも、自分の仕事もすごく大事な部分があるし、色々なことを考えて、色々な人としゃべって、うちの子にきちんと言いました。「君はかわいそうな子じゃない、絶対信じるな」って。「ママは命を懸けて君を愛するし、家に帰ってママがいない日があるかもしれないけれど、それはかわいそうとは違います。ママは一生懸命子どもを愛して育てる。人よりも何倍も楽しい毎日を過ごそう」って。あのときは、親戚とかがうちの子に向かって「かわいそう」と言われているのを見るのが本当につらかった。私が見ていないときでも、この子は言われているのかなって。当時の風潮は、女性が子育てとキャリアを両立することにはまだ批判的でしたね。
―― 今でさえ、保育園に入れるとかわいそうだという価値観が根強くあります。
アグネス 夫もかわいそうとか言われて。あなただけが子どもを連れて出かけるんですかって、夫に言うんですよね。お母さんはどうしたのって。いやいや、これはパパの子育ての訓練ですから。ママがラクしているわけじゃない。家の中だって、やることはいっぱいあるんだから。だけど、周囲から理解が得られないのは、精神的に結構つらかったです。
しっかり育てる、ちゃんと暮らす、実績を出す、これで対抗した
だから後輩ママに言うなら、自分を信じて、自分の愛情を信じてやっていくしかないと思うんですね。あんまり周りの色々なネガティブな言い方を聞かないというか、気にしなくていいと思うんです。なぜかというとやはり年代が違うとか自分の生活環境が違うと、違うことをやっている人のことを理解できない場合があるんです。だから、自分の生き方で証明していくしかない。自分の家族を信じて、自分の家族を守るのも価値観を守るのも自分ですから。親子がいかに楽しいか、いかに面白いか。そして、いかにちゃんとしているかっていうことを、信じて前に進んでもらいたいですね。
―― 日本の共働きですと、子どもが発熱で親を呼び出すとき、何の迷いもなくお母さんのスマホにかけてくるんです。それで実験してみたのです。学校やシッターサービスに記載する緊急連絡先の1番目の携帯電話を夫、2番目に私、3番目に義理の母として。ですがなぜか必ず、まず私に電話がかかってくるんですよね(笑)。「先生、1番目からかけてほしい」って言うと、「あら、これお父さんですけどいいんですか」と言われる。男女の役割意識は潜在的にもまだありますし、妻も「後は私がやるからもういいわ」と自がすべてを引き受けてしまう人は多い。アグネスさんからDUAL読者に何かアドバイスをいただけますでしょうか?