アグネス 私は外から見ると、すごくキャリアを大事にしているイメージが強いんですけれど、私が生み出し、私が責任を持たなければいけないのは、やはりまず子どもです。まずは彼らが最優先。できる限りのやりくりをしながら、気持ちはいつも子ども最優先でやってきました。

 自由業ですから、仕事のペースを子どもの成長に合わせて、どうしたら仕事と子育て両方の生活が組み立てられるのかというのを色々と考えました。それで会社と家を一緒にしたら、仕事の合間でもちょっと会えるかなとか、学校が近ければ呼び出されたときにすぐに行けるのかなと。横浜からだと、毎日1時間かけて子どもが学校に通うのはとても無理。最初、家を建てるときはローン払いだったので一大決心。夫婦で話し合って、「がんばろーぜっ」って。それでこの家に引越したんです。

スタンフォード日本人枠は空席 中国人、韓国人のほうが入学に熱心

―― アグネスさんのように、自分の子どもをスタンフォード大学に入れられたらいいなと思いますが、日本の学校へ行っていて、急にスタンフォードに入るのはやはり難しいのでしょうか。

アグネス うーん、やっぱり英語力が大切なので……。子どもに英語力をつけてあげれば、不可能ではないと思いますよ。学校としては全世界からバランス良く学生を集めたいと思っている。でも、日本人枠は空席。今は日本からの留学生は少ないので有利なんですよ。

―― 日本の留学生が少ないのはどうしてでしょうか?

アグネス 申し込んでこないからですね。最初から無理だろう、授業料が高いんだろうと諦めてしまう方が多い。あまり事情を知らないからというのも大きいでしょうね。実際、日本には優秀な方がいっぱいいらして、国内の難関校の試験に通るんだったら、本気になればスタンフォードだって全然夢ではないと思うんです。英語力が大切と言いましたが、中国や韓国の留学生はいるけれど、正直言ってそこまでネーティブでない人達でも、その他の得意科目などでカバーして入れています。

 文系に入るためには英語力が必要ですが、数学とかエンジニアとかの理系は実力次第。誰を入れるか入れないか、判断する人達はプロですから、英語力以外のこともしっかり見ていますし、中学に入ってからの学校の成績が良ければ、この子は優秀だとかそうでないかということは分かります。だから挑戦する前から諦めるのはもったいない。むしろアメリカの大学は、奨学金制度が充実しているので、日本よりももっとチャンスがあると思いますよ。

「7帝大、12大、新卒入社」なんてスケールが小さい! 子どもの夢の幅を狭めているのは、親の想像力の乏しさ

―― そこまでネーティブじゃないアジア人も頑張って入っている。日本はどうしてもガッツというか、競争力の部分では負けがちなんでしょうか。

アグネス 親の想像力が足りないんだと思います。日本の親は「7帝大、じゃなければ12大学」など自分の中でスケールを決めてしまっている人がとても多い。外国へ行かなかった人に理由を聞くと、「外国の大学に行ったら、戻ってくるときは就職が1年遅れになる」とか、要するに就職戦争の中に入れないとか、日本の大企業の中に入りにくいとか、そういう心配をしています。でも実際は、私の友達やうちの子の友達も帰国後に日本で就職しているけれど、記者になったり、外資系の有名企業に営業力や国際性を買われたりして、とても高収入の子が多いんです。「君はこれが向いている」「君はこれがいいんじゃないの」と勧めるのもいいけれど、子どもには無限の可能性があるんですから、スケールの小さい話をしないで「子どもが本当は何をやりたいのか」ということを聞いて、その子の夢を応援してあげてほしいですね。

 27年前私がスタンフォードへ留学したとき、アップル社の試験的なコンピューターを2歳半の長男が触っているのを見て、正直言ってこんなの本当にはやるのかなって横目で見ていました。当時Eメールとかも分からなくて大変な苦労をしたんですが、当時からすると今は想像をはるかに超えた世の中。 DUAL読者の子ども達が社会に出ていく20年後もきっと親世代が想像できない世界が待ち受けているのです。親の限られた想像力で子どもの将来を決めない、夢を小さくしないということもすごく大切です。いつも最先端を目指したほうがいいと思います。