首長の優先順位が、役人を動かす

 舛添都知事ご自身が、この子育て支援領域に対して、大きな関心を払っていなかった節があります。例えば、この子供子育て支援総合計画は、少なくともこれから5年の都の待機児童政策や、子育て支援全般の政策を規定するものですが、彼が子供子育て会議に顔を出したことは、ついぞありませんでした

 トップが目を光らせている会議と、存在も知らないような会議で、役人の方達の頑張りの差がつくのは、当然といえば当然です。

 「会議に出なかったからと言って、優先順位が低いとは言えない。知事は忙しいわけだし」という反論もあるでしょう。では、舛添知事の視察履歴を見てみましょう。産経新聞によれば、舛添知事は54回の視察を行っていますが、保育園への視察は0回です。(7割が美術館と博物館)

参考)舛添知事、視察の7割超が展覧会 保育所・介護施設はゼロ
http://www.sankei.com/politics/news/160522/plt1605220007-n1.html

 工場で特定の部品にものすごく不具合が多かった場合、その部品の製造現場に足を運ばない工場長はいません。問題解決のはじめの一歩は、何はともあれ、現場に行くことだからです。これで、十分すぎるほど、知事の優先順位が分かるでしょう。

都知事が棒に振った機会

 もし舛添都知事が現場に行って、忌憚なく保育事業者や保育士たちの声に耳を傾けたなら、すぐに気づけたでしょう。保育士の処遇の低さと、それによる保育士人材不足が、保育園開園のスピードを鈍らせている、ということを。

 そうしたら、東京都は国に先駆けて、「東京都保育士加算」を創設できたでしょう。例えば東京都で働く保育士に月額4万円上乗せして、全国の女性の平均賃金まで底上げしたとしたら。保育士不足の改善に相当なインパクトを与えられたでしょう。

 東京都で働く保育士の数は、およそ3万人なので、年間で約144億円になります。これは、都の予算規模からいうと、0.23%です。「中小企業の総合的な支援」(3366億円)の4.3%です。都知事がトップダウンで優先順位を変えていたら、このレベルの予算は捻出できていたでしょう。