物や金といったものと同列に、人を横に並べて考えてはいけない

小酒部さやかさん
小酒部さやかさん

―― 徹底されていますね。この近藤社長の発想の源はどこにあるのでしょうか?

近藤 大きな経験は、かつて従業員をリストラする立場にいたことです。

 私は28歳のとき、労働組合の委員長を経験しました。壮絶な組合同士の対立をまとめ、ようやく片が付いたと思ったときに、会社はオイルショックなどで倒産寸前の状態に。会社が潰れては元も子もありませんから、労働組合委員長として1100人の希望退職者を受け入れる代わりに、経営トップ全員の退任を迫ったのです。組合をまとめるときに一緒に闘った仲間に対して、経営合理化への協力を要請するのはとてもつらく、私の中でも相当の葛藤がありました。

 この組合活動を11年行った後に、ニュージャージー州の支社に行き、その支社を畳む仕事に就きました。所有している土地を全部売却し、従業員を全員解雇するわけです。

 その後、ボストンで働いたのですが、冷戦崩壊の影響でアメリカの軍事予算がカットされました。そうすると、会社で持っていた仕事が4割無くなってしまう。だけど赤字にしてはいけないと言われ、支配人の責任として、日本人社員を半分に減らし、現地人をレイオフしました。私が40代のころ、10年ほどアメリカにいたときの経験です。

―― お金のために人を切るのに抵抗を感じるようになったと……。

近藤 企業は教科書通りにやると「人・物・金・情報」と、横並びの形を考えます。人と物と金と情報を同列にする。そうすると「経営が成り立たない。じゃあ、人を切ろう」という選択肢がいつか出てきてしまう。例えば人を一人切ると年間1000万円浮く、というように。

 「人がお金に変わる」。そこがもう、根本的に問題なんですよ。

 人は、物や金といったものと同列に、横に並べてはいけない。金・物・情報、これが経営資本です。人はこの上に立った三角すいであるべきなんですよ。上に人がいるから、金や情報を生かすことができ、物を作ることもできるし、付加価値を生み出すこともできるわけです。人が親玉であり、心臓みたいなもので、その他のものと同列にはできないのです。そこを取り違えているから、企業は平気で人を切ってしまうわけですね。