落とし穴3. 「家族全員分」の医療保険

“何となく不安”という気持ちが膨らんでしまうから

 「何となく不安だから」と、中身をよく理解しないで保険に入っても、安心が手に入るわけではありません。

 内藤さんは「夫婦とも年収が高くて正社員という場合、恵まれていることと裏腹に、リスクの高い家庭であることが多いのです。年収は多くなくても安定していれば、その中で収支の見通しが利くのですが、年俸制や出来高制だったり、いつリストラに遭うか分からない状態だったりで、来年の収入が下がる可能性もある。そんな場合に、現時点での収入を大前提とした生活スタイルになっていると危険です。保険は不測の事態はカバーできても、給与の減額はカバーできません」と忠告します。

 病気やケガに備えて、つい家族分の医療保険に入っている場合もありますが、「夫婦とも正社員だったら、公的な健康保険には傷病手当金の制度もありますから、家族分の医療保険は不要です。子どもはそもそも医療費が無料になる自治体もあります。子どもの医療保険は全く考えなくていいでしょう」(内藤さん)。

 「日本人は国民皆保険があるため、とても恵まれています。会社員はさらに保障が上乗せされて手厚い場合もあります。正社員の皆さんには、『保険会社のパンフレットを見る前に、自分の会社の福利厚生をよく確かめて』と言いたいですね」(深野さん)

 だからこそ、話は最初に戻って「安易に正社員の立場を捨てないことが最大の保険」と内藤さん。「もし、がんになったとしましょう。がん治療の最大のキモも『会社を辞めない』ことです。病気で会社を辞めるのは最後の選択だと考えてください。『治療に専念するために退職する』は考えてはいけません」。

 「そのためには自分が元気なときに病気になった人もサポートして、みんなで助け合う風土を自分の会社に作っておくことが大切です。繰り返しになりますが、どんながん保険も、どんな医療保険も、治療費はカバーできても、収入ダウンのダメージはカバーできないのですから」(内藤さん)

 保険はあくまでも道具。頼り過ぎるのは危険です。

 「日本人は学資保険、年金保険といったネーミングに弱いですよね。必ずしも保険でなくても、もしもの場合に備えて自分で貯める方法もある。しかも貯金には色がついていないから、使い道も自由です。保険を途中でやめるともったいない、という発想から解放されてください。保険料を払い続けることが、損を重ねる場合だってあります」と深野さん。

 しかし、深野さんも内藤さんも、DUAL世帯に保険は全く要らないと言っているわけではありません。詳しくは第4回の【医療はがん保険だけで十分 オススメ保険ベスト3】第5回の【共働き子育て家庭 意外に知らない加入マスト保険!】をどうぞ!

画像はイメージです
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深野 康彦(ふかの・やすひこ)

クレジット会社勤務を経て1989年4月に独立系FP会社に入社。96年1月に独立し、現在、有限会社ファイナンシャルリサーチ代表。テレビ・ラジオ番組など出演、各種セミナーなどを通じて、投資の啓蒙や家計管理の重要性を説いている。あらゆるマネー商品に精通し、分かりやすい解説に定評がある。主な著書に『これから生きて行くために必要なお金の話を一緒にしよう!』(ダイヤモンド社)、『家計崩壊「見えないインフレ」時代を生きる知恵』(講談社)、『図解 金融機関にすすめられた商品の中身がわかる本』(講談社)などがある。

内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)

日本生命保険相互会社勤務を経て1996年にファイナンシャル・プランナーとして独立。「生活設計塾クルー」のメンバーとして個人のマネープラン、保険の見直し等の相談業務を行う。新聞、雑誌等にライフプラン、金融商品などに関する執筆のほか、講演、セミナーの講師としても活動。『医療保険はすぐやめなさい』『医療保険は入ってはいけない![新版]』(ともにダイヤモンド社)、『生命保険はこうして選びなさい[新版]』『お金はこうして殖やしなさい[改訂3版]』(ともに共著 ダイヤモンド社)、『お金のプロがすすめるお金上手な生き方』(コモンズ)、『新年金まるわかり』(共著 小学館文庫)など著書多数。http://www.fp-clue.com/index.html

(ライター/阿部祐子、イラスト/taeko)