劇作家・演出家で、最近「下り坂をそろそろと下る(講談社刊)」を出版した平田オリザさんへのインタビュー、後編です。「これからの時代に大事なのは問題発見能力」「女性が結婚や出産によって、それまで享受していた権利を放棄しなければいけないような社会は、もう無理」――平田さんが描く、教育や子育て、そして地方都市の未来。そして、日本社会が目指すべき道とは。

<前編はこちら>
■  平田オリザ「母親が何かを犠牲にする社会はおかしい」

「問題解決能力」よりも、これからの時代は「問題発見能力」

DUAL編集部 平田さんは四国学院大学や大阪大学大学院で、入試改革を手掛けています。グループワークを取り入れるなど、特色のある試験内容ですが、その狙いは。

平田オリザさん(以下、敬称略) これまではずっと「問題解決能力」が大事だといわれていましたが、僕はこれからの時代、「問題発見能力」のほうが大事だと思っています。「問題発見能力」とは、私達を苦しめているものは何か、不幸にしているのは何かを直視し、問題の本質に迫る能力。その力を見極め、養う教育を目指しています。

 そのような力を育てつつ、社会としては、価値観を一つにする方向ではなく、価値観がバラバラなままでうまく共存できるようにしていく必要があります。日本人同士でも価値観が多様化していますし、今後、より多くの外国の方を日本に受け入れたり、逆に日本人が海外で働いたりすることも増えるでしょう。

DUAL編集部 そういった力を伸ばすために、子どもが小さいうちから親ができることは何ですか。

平田 3つあります。1つは、学校教育の中で、アクティブ・ラーニングと呼ばれる参加型、双方向型の授業を増やすことです。公立でもこういう教育に力を入れている学校はあるので、親としてはそういう学校をうまく選ぶといいでしょう。

 2つ目には、子どもに本物の芸術体験をさせることです。スポーツでも構いません。ただ鑑賞するだけでなく、創作活動やワークショップなど、集団で何かを成し遂げる体験をたくさんさせるといいですね。親以外の大人と接触する良い機会にもなります。

 もう1つ、僕がよく申し上げているのは、親自身が、ちゃんと人生を楽しむということです。親がコンサートや美術館に行く家庭でないと、子どもが勝手に行くことはありません。それに、親が子どもの教育だけに集中するのは、とても危険な状態。仕事や趣味を通して社交的に活動し、親が、子育て以外の社会を持つことが大切です。

<span style="font-weight: bold;">平田オリザ</span> 1962年東京都生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」を結成。戯曲と演出を担当。現在、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター客員教授。2002年度から採用された国語教科書に掲載されている平田さんのワークショップ方法論により、多くの子ども達が、教室で演劇を創る体験をしている。戯曲の代表作に「東京ノート」「その河をこえて、五月」など。
平田オリザ 1962年東京都生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」を結成。戯曲と演出を担当。現在、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター客員教授。2002年度から採用された国語教科書に掲載されている平田さんのワークショップ方法論により、多くの子ども達が、教室で演劇を創る体験をしている。戯曲の代表作に「東京ノート」「その河をこえて、五月」など。