女性が結婚や出産によって、享受していた権利を放棄しないで済む社会に

DUAL編集部  平田さん自身はどのように育てられましたか。

平田 母はキャリアウーマンの第一世代で、僕は生後6カ月で保育園に預けられていました。恐らく当時、0歳児を預けることは相当風当たりが強かったと思います。最近、0歳児を預けているお母さん達と話したら、「そんなに早く預けるのか」という風当たりが強いと聞いて。「いまだにそうなの?」と驚いたんですが。

 母は、留学したいという思いが強かったのですが、僕を産んだために留学を諦めました。僕は20歳のときにその話を知って、ショックを受けて。それが僕の原体験になっています。

 母親が子どものために何かを犠牲にするのって、その瞬間では「子どものために」ですが、犠牲が出ている以上、社会全体にとっては明らかにマイナスです。子どもにとっても、決してプラスではないこともある。

 要するに、「女性が結婚や出産によって、それまで享受していた権利を放棄しなければいけないような社会」は、もう無理なんです。この1点さえ踏まえれば、街づくりや教育政策は、今よりずっと良い方向に変わるはずです。「女性がそれまで享受していた権利」とは、単に「働く権利」だけではありません。芝居や映画を観に行くなど、文化的側面も含めて、それらを放棄しなくて良い社会を目指すべきです。

 僕の母は、安倍首相が「3年間抱っこし放題」と言ったとき、烈火のごとく怒っていました。放っておいてくれ、そうじゃないんだ、と。

DUAL編集部 確かに、今の子育て世代の感覚とは隔たりがありますね。

平田 だから今の皆さんが、社会の中核になったときに、今の気持ちを忘れないでいていただきたい。これで数年後、“おっさん”みたいになったら困りますよ。

※平田さんの新著「下り坂をそろそろと下る(講談社刊)」でも、母親や子育てを取り巻く現状分析、地方再生などについて、平田さんによる鋭い考察が読めます。

(取材・文/星野ハイジ 撮影/品田裕美)