「自分だけが苦労して、誰かがズルしている」という妬みが蔓延している

DUAL編集部 なぜ、後ろ指をさされてしまうのでしょうか。

平田 ヘイトスピーチに象徴されるように、「自分だけが苦労して、誰かがズルをしている」「誰かがいい目をみている」という嫉みが日本社会の基盤になりつつあることが原因です。「子育て中のお母さんが、保育園に子どもを預けて映画を観に行くと後ろ指をさされる社会」と、「失業者や生活保護者が、昼間に芝居を観に行くと通報されてしまう社会」。そして、ヘイトスピーチ。日本で起こっているこれら3つの現象は、すべて根っこの部分でつながっていると思います。そして、こうしたマインドの問題が一番大きいのに、それを無視したまま、目先の対応だけが議論されています。

DUAL編集部 どうしたら、現在のギスギスした状況を打開できますか。

平田 一つには、「子どもは社会全体で育てるんだ」ということを、皆がもう一度自覚することです。子どもを家族だけで育てるというのは、戦後、アメリカから入ってきたモデルであって、日本の伝統的な社会でもなんでもありません。子どもに個室を持たせて、クリスマスにプレゼントを買って・・・というのは、消費社会にとって都合のいい、高度経済成長期のある種の幻想です。

 僕自身は、商店街の中で生まれ育ち、小さいころは人の家に預けられることが普通でした。今、昔と全く同じようにすることは難しいでしょうけれど、これから徐々にでも「社会全体で子育てをする」という意識を持つ必要があります。

 保育園の音の問題についても、個別の事情はあるでしょうが、自分の孫の声をうるさいと思うおじいちゃん、おばあちゃんはいないですよね。音の感じ方って、すごく主観的な、相対的なものなので、知っている子の声だったらそんなに気にならないはずです。もちろん、防音設備など、技術的な対応も必要ですが、ここでもマインドの問題が大きいと思うんですよね。

DUAL編集部 他にも、打開策はありますか。

平田 もう一つ大事なのは、教育です。「自立する」ことと、「他者を尊重する」ことはすごく矛盾することなので、教育の中でそれを教えていかないといけない。そうした教育はイギリスでは、「市民化教育」といわれて、良き市民をつくるための教育がなされています。日本はそういう備えなしに、一気に個人主義社会に突入してしまいました。インターネットの隆盛も相まって、無防備な状態のまま予想以上に個人主義化が加速した印象があります。