ファイナンシャルプランナーの中嶋よしふみさんが、DUAL読者のお金に関する疑問やお悩みに答える本連載。今回のテーマは「がん保険」。保険会社のCMやパンフレットでよく見るけど、本当に必要なの? がん保険の考え方から、加入前に知っておきたい保障の内容まで詳しく教えてもらいました。

 先日、日本経済新聞でがんに関する記事が掲載されました。

◆がんで転職、4割非正規に 民間調査(日本経済新聞 2016/4/3)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG03H27_T00C16A4CR8000/ 

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によれば、がんにかかって転職した人は14%、そのうち4割は非正規雇用になっていたという内容です。

 14%ならそこまで心配するほどではないと思われそうですが、別の調査では依願退職が30.5%、解雇が4.1%、合計で約35%が退職を余儀なくされています(出典:静岡がんセンター『2013がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査概要報告 がんと向き合った4,054人の声』より)。

 調査対象も調査方法も異なるため、一概に比較はできませんが、調査対象の人数は前者が978人、後者が1628人となっています。これらのデータから、がんにかかると一定数の人が退職せざるを得ず、転職後は非正規雇用になる可能性も高い、と考えられます。

 だからがん保険に入ろう、と考える前にがんによる影響がどの程度なのか、より正確に把握する必要があります。

がんにかかる確率と治療費はどれくらい?

 国立がんセンターが運営するがん情報サービスによれば、30代の男女が10年後にがんにかかっている確率は男性で0.5%、女性で1%です。70代になるとそれぞれ30%、13%と数字がケタ違いに増えます(最新がん統計・更新日2015/04/22)。こういったデータから、がんは高齢者の病気と考えてよさそうですが、めったにならないというほどは低くはありません。

 一方でがんにかかった際の平均的な治療費は100万円程度といわれています(第3次対がん総合戦略研究事業「がんの医療経済的な解析を踏まえた患者負担の在り方に関する研究」2013年度報告書によると、「92万円」となっています)。

 実際には高額療養費制度による上限や確定申告による医療費の還付金などが差し引かれますので、負担額はここから何割か減ります。

 しっかりと貯金をしている家庭にとって100万円以下の支出は「万が一」ではありません。例えば1000万円の貯金がある家庭ならば、治療費で貯金が100万円減った場合、精神的なインパクトは大きいと思いますが、生活が破綻することはありません。これらの数字を見れば、治療費に対応するためにがん保険に加入する、という判断は間違っています。

 ただ、ここで重要なことは「治療費は思ったより少ないから大丈夫」というわけではないことです。

 若ければがんになる確率が高齢期より低いことは間違いありませんが、治療費がかかってもすでに引退をしていれば収入減少のリスクはありません。一方で、若いうちのがんは確率が低くても収入が減る可能性があります。つまりがんの「万が一」は死亡することではなく、「若いうちにがんにかかって収入が減ること」です。これが長期にわたって続けば治療費が誤差の範囲と言えるほど、金銭的にマイナスの影響を受けます。

 もちろん死亡することは「万が一」ですが、それは生命保険の守備範囲ですから、がん保険で考える必要はありません。そして働けないほど体調は悪くないけど以前ほど稼ぐことはできない、という人に対する公的な保障はありません。つまり、収入ダウンが家計にダイレクトに影響するわけです

 それでは、実際の保険選びではどんなことに留意すればいいのでしょうか? 

 次ページから、一般的ながん保険の中で選ぶべきタイプ、DUAL世代に本当に必要ながん保険と具体的な商品名、生命・医療・がん保険の優先順位のつけ方について解説していきます。