現役高校生の半分以上が「留学したくない」

 現役高校生に「将来留学をしたいですか?」と聞いたところ、「したい」と答えた人は半数を下回る42.3%。その理由としては「経済的に厳しい」(37.9%)もさることながら、「言葉の壁」(56.0%)、「留学方法、外国での生活、勉強、友達関係の不安」(33.6%)、「魅力を感じない」(32.3%)と、留学自体に興味を持たない生徒が多いことが明らかになっています。この現象について専門家に話を聞きました。

 「高校生の留学についていえば、留学生の数は20年前に比べて大幅に下がっています」と言うのは、25年前から海外留学情報の提供や留学生への教育・指導を行ってきた海外留学協議会(JAOS)専務理事、林隆樹さんです。「例えば、高校生の留学でこれまで多かったアメリカへの交換留学生数にも、その変化は如実に表れています」(林さん)

海外留学協議会(JAOS)専務理事・林隆樹さん
海外留学協議会(JAOS)専務理事・林隆樹さん

 高校生の留学には大きく分けて、日本の高校に籍を置いたまま1学年間(約10カ月)現地の高校に留学する交換留学と、卒業を目的として2~3年現地の高校で単位を取得する私費留学があります。上の表は日本からアメリカに交換留学する高校生の数。2003年は1698人いましたが、2016年には913人と約半数に減っているのが分かります。その原因について林さんはこう指摘します。

 「一つの大きな原因は『学生の内向き化』といわれています。インターネットなどで海外の情報が簡単に手に入るようになり、居心地のいい日本を抜けてワケが分からない外国で生活するなんて、という生徒が増えてきたんですね。一番減ったのは2010年ごろです」と林さん。

 確かに、高校留学の生徒数が一番少ないのが2010~11年の755人。しかしそこからみれば、ここ数年で留学生数はわずかながら上がってきています。これは、日本全体の留学生数の推移と同じ曲線です。

増えているのはイヤイヤ留学

 「2010年ごろ『さすがにこれではまずい』と政府が危機感を持ち始めました。『グローバル人材を育てよう』という声が文部科学省から上がり、高校生への留学支援金制度を実施したり、また2013年より『トビタテ!留学JAPAN』というプログラムで、行政から大学生や高校生への働きかけが始まったのです。これは、行政だけでなく、民間企業からの支援金を受けた官民協働で高校留学も国が奨励し、選抜で優秀な生徒には一人当たり最大90万円以上の奨学金が支給されています。そうしたかいあって、ここ3年では留学生の数は若干増えてきていますね」(林さん)

 とは言っても表にあるように、中国やイタリア、スペイン、ノルウェー、デンマークといった国の伸び率とは比較にはなりません。

 「やはり少子化の影響が大きいでしょう。生徒数はアメリカ側の留学生受け入れ人数にも制限があるため、日本からの交換留学生のパイを急に拡大させるのは難しい。しかし、他国がグローバル化を図り、日本が少子化問題を抱えているからこそ、日本企業も海外に目を向けないと生き残れない時代。グローバル人材を育てる必要は一層高まっているのではないでしょうか」と林さんは話します。

 「私は20年以上前から、1学年間の高校生の留学を最も応援してきました。なぜなら高校生という多感な時期に、1年も親元を離れ、言葉もほとんど分からない国に行って異文化を体験するという冒険をすることが、語学力の習得という以上に、その後の人格形成にとても大きな、良い影響を与えるからです」(林さん)

 「ひと昔前の『留学してみたい』という生徒達は『憧れ』を持っていました。英語力は今の学生より劣っていたかもしれませんが、『アメリカに行ってみたい』とか『海外に出てみたい』とか、自分からその憧れに向かって留学をしたいという強い動機があってこそ、苦労を乗り越える力があり、結果サバイバル能力も高まったのです。でも、今は『親が言うから仕方なく』とか『就職に有利だから』という理由で、大学で仕方なくイヤイヤ留学をする学生が増えているように感じています」(林さん)

 この話を裏付けるように「近年、日本から海外に出る留学生の全体数は増えています」と語るのは、国際教育コンサルタントであり、“留学ソムリエ”の大川彰一さん。大川さんも留学の内容や期間、渡航先の変化を指摘します。