二人親世帯の貧困への給付はメカニズムがない

駒崎 2人目以降増額のための働きかけをやった実感としては、まず、政治家があまりにも実情を知らないということに驚きました。児童扶養手当2人目5000円というのを「初めて知った」というレベルの政治家が結構いて(苦笑)。逆にいえば、知らないだけで話せば分かる人が多くて、「それは確かに少ないよね」とすぐに賛同してくれたんです。

 あとは財源さえクリアすればいいということになるんですが、さすがに数千億円とかの単位になると、彼らも公約なしには進められなくなってしまう。でも、百数十億円とか数百億円くらいのオーダーであれば「それで政権が花火を打ち上げられるんなら、ありだよね」という話になる。

 こういう実感から踏まえて、数百億円レベルでできる対策を2年に1回くらい打ち込んでいくことで子どもの貧困を緩和させることはそう難しくないのかもしれないと思っているんです。数百億円単位でできる一番効果的なプランを提案しようと思っているんですが、アドバイスいただけないでしょうか。ビジネスの経営でいわれるボウリングのセンターピン理論のように、「ここに当てれば効果が高い」というターゲットがあるなら狙っていきたいんです。

阿部 小さなお金で大きな効果を出すという意味では、やはり先ほども申し上げた児童扶養手当の拡充は候補になってくると思います。例えば5000円上げただけでも、一人親世帯の貧困率をだいぶ下げますし、貧困線ギリギリの方の生活も楽になると思います。ただ、あまり一人親世帯だけを充実させている印象になると、バッシングが起きるので注意しないといけません。バッシングが起こると入口規制が厳しくなってしまうので、結局、対象が狭まる現象が起きてしまいます。難しいところですね。

 一方で、二人親世帯の貧困に対する給付というのは、今のところメカニズムがないんですね。児童手当がありますが、所得制限の限度額が高過ぎて、貧困対策の給付としては使えない。新しいメカニズムを作るのは大変なので、現実的にできることとしたら、マイナンバー制度を活用した税額控除ではないでしょうか。これなら、子どもの有無や人数も把握できますし、税の計算方法を変えるだけなので比較的簡単です。

駒崎 給付付き税額控除ということですね?

阿部 まずはそうなります。ただし、給付付き税額控除はプラスマイナスのさじ加減が非常に難しいので、細かく見ていく必要があります。意外に知られていませんが、民主党政権時代に子ども手当が拡充された一方で、扶養控除がカットされましたよね。2012年度に貧困率が上がってしまったのは、この扶養控除カットが効いているのではないかと私は思っているんです。特に年収300万円世帯くらいの方の手取り所得が減ってしまったんです。調整が非常に難しい政策にはなりますが、根本的な子どもの貧困解消のためには、二人親世帯を対象としたサポートも不可欠であることは確かです。

 ただし、給付付き税額控除を今からやると決めても、実際に導入できるのは10年後くらいになるでしょう。それでは遅過ぎます。今、困っている子どもへの対策として間に合いません。取りあえず今お金をつけてできることとしたら、やはりサービス給付しかないかなと思いますね。サービス給付なら現金給付に比べるとアレルギー反応も起きませんし。一番前のセンターピンではないかもしれないけれど、後ろのほうのピンから確実に倒していく手法ですね。

――次回の記事では、子どもの貧困を撲滅するための具体的な対策について、さらに詳しく聞いていきます。

阿部彩
首都大学東京教授。専門は貧困・格差論、社会保障論、社会政策。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院博士課程修了。主著に『子どもの貧困II-解決策を考えるー』(岩波新書、2014年)、『弱者の居場所がない社会』(講談社現代新書、2011年)など。厚生労働省社会・援護局「ホームレスの実態に関する全国調査検討会」委員(2006~2008年)、内閣府男女共同参画会議 監視・影響調査専門調査会「新たな経済社会の潮流の中で 生活困難を抱える男女について」検討委員会委員(2008~2010年)、内閣府男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会女性と経済WG専門委員(2011~2012年)などを歴任し、2011年より厚生労働省社会保障審議会臨時委員(生活保護基準部会)。

(文/宮本恵理子 撮影/鈴木愛子)