親がもっと働けばいいという批判は非現実的

阿部 そうですね。「学校の部活動なんて大してお金はかからないのでは?」と思われるかもしれませんが、新しいスパイク1足が買えないために好きなスポーツを諦めざるを得ない子ども達がいる。ある中学生の女の子は「新しいパジャマと下着が買えないから」という理由で修学旅行に行けなかったそうです。

 年収800万円、900万円の世帯ですら、「子育てにはお金がかかる」と決して楽ではない状況の中、年収200万円で同じ費用を捻出しなければならないという厳しい現実があります。当然、子ども達の発達にも悪影響が出てきて、様々な学校活動に参加できないために勉強が遅れがちになり、心身の健康の悪化、総合的な自己肯定感の低下につながります。親の年収によって子どもの学力が決まる、という悲しい現実が生まれています

駒崎 僕も児童福祉に関わる一人として、子どもの貧困の現状を訴える場面が少なからずあるのですが、いわゆる経済的に成功している人達から返ってくる反論が、「だったら親がもっと働けばいいじゃないか」というものです。2人で働けば手取り244万円はラクに超えるでしょうと。

阿部 共働きだとしても、2人そろって非正規雇用の場合、社会保険料を全額自己負担で払わなければならないんですよね。今の日本の社会保障のシステムは逆進性が高い、つまり、所得の低い人の負担がかなり重くなる仕組みになっているんです。正社員雇用の場合は社会保険料の半分が雇用主負担ですし、あまり実感として負担を感じない部分かもしれませんが、非正規雇用の場合は相当重くのしかかってきます。

 頑張って稼いでも、国民健康保険、国民年金、所得税、住民税でかなり持っていかれてしまって、手取りが少なくなってしまう。そういう現状を知ってほしいと思います。

駒崎 非正規雇用であったり、病気を抱えていたりという状況下では、容易に手取り244万円以下に行ってしまうということですね。

阿部 さらに言えば、ここ10年くらいの労働環境をリサーチすると、正規雇用労働者の貧困率も上がっているんです。

駒崎 つまり、正規・非正規問わず、労働環境が厳しくなっていると。

阿部 はい。だから、単純に正規労働者になればいいという問題でもなくなってきています。