教育者の隂山英男さんにお話を伺うインタビューの後編です。前編では、「親の笑顔が子どもを伸ばす」とのお話を伺いました。今回は、「子どもを伸ばす学習法」に目を向けます。隂山さんは小学校教師時代、「百ます計算」など基礎の徹底反復を軸とする学習法を取り入れることで、子どもたちの学力を劇的に伸ばしてきました。なぜ、基礎を繰り返し徹底すると、子どもは伸びるのか。その秘密に迫ります。

努力と根性だけの指導ではダメなんだと学んだ

DUAL編集部 教師としてこれまで多くのお子さんを指導してこられて、印象に残っていることはありますか。

隂山英男さん(以下、敬称略) 強烈に覚えていることがあります。私がまだ教師になりたての頃、とにかく勉強から逃げ回る男の子がいました。典型的な田舎の悪ガキといった感じです。

 夏休みの終わりに、「補習をするから来なさい」と言って私は教室で待っていたのですが、いくら待ってもその子は来きません。家に電話すると「急用で行けなくなった」と答えました。「じゃあ、明日は来なさい」と言って翌日も待っていたのですが、やはり来ない。今度は家まで迎えに行きました。その翌日も、やっぱり来ないので家に迎えに行くと、今度は家にもいないんです。しまいには、ラジオ体操の終わりを待ち伏せして捕まえに行きました。そんな調子で勉強をやらせましたが、思うようには伸びませんでした。

 結局私は、その子に「逃げ回る」ということや「先生を裏切る」ということを学習させてしまっただけ。また、その子にとって、「頑張っても学力は身につかなかった」という経験の刷り込みになってしまった。自分は、「一生懸命頑張る良い先生」のつもりでしたが、ただ努力と根性だけの指導ではダメなんだと、このとき痛感しました。

 3年後、再びその子の担任になったとき、もう同じ失敗は繰り返せないぞと思いました。子どもを伸ばす必殺技を、と思って取り入れた学習法が、「百ます計算」です。

隂山英男(かげやま・ひでお) 1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒業、教師に。反復学習で基礎学力向上を目指す「隂山メソッド」を確立する。「百ます計算」に代表される「徹底反復シリーズ」などが有名。文部科学省中央教育審議会特別委員、大阪府教育委員長などを歴任。現在、立命館小学校校長顧問。
隂山英男(かげやま・ひでお) 1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒業、教師に。反復学習で基礎学力向上を目指す「隂山メソッド」を確立する。「百ます計算」に代表される「徹底反復シリーズ」などが有名。文部科学省中央教育審議会特別委員、大阪府教育委員長などを歴任。現在、立命館小学校校長顧問。