人間ドック3回目にして甲状腺がん罹患が判明

 実はそれまで、人間ドックは何度も受けていました。30歳くらいの頃「甲状腺にしこりがある」と言われ、総合病院で精密検査したところ「大丈夫ですよ」と言われて。その2年後の人間ドックで、また同じ症状でひっかかって別の病院で検査したんですが、また結果は問題ナシ。36歳の人間ドックでまた同じことを指摘されたときに、それまでの状況を先生に相談したところ、ある病院を紹介してもらってそこで検査をしたら、甲状腺がんが見つかったんです。

 2×3cmくらいの腫瘍。しかも、レベル4の悪性の疑い。「すぐに手術して腫瘍を取ったほうがいい」と言われました。

 それまで大きな病気も、ケガもしたことがない。がんの自覚症状も全くなかったので驚きました。おそらく最初にしこりが見つかったときに罹患していたのだと思いますが、6年間ほったからしだったと思うと怖くなり、猛烈に落ち込みました。

 僕は根暗で、すぐ最悪のことを考えて悩んでしまうタイプ。「自分はもう死ぬんだ。俺の人生はいったいなんだったんだろう」。妻にも「これからどうすればいいんだ」と、ぐちぐち言っていたんです。そんな僕に妻は「そんなの、死ぬって決まったときに考えればいいんじゃない?」って。「え、病気の人間にそんなこと言う?」と思いましたが、明るく励ましてくれた彼女のおかげで、「まずは病気を治そう」と手術を受けることへの覚悟が決まりました。

手術で声が出なくなる可能性も……。もっと歌っておけばよかったと後悔した

 「手術で声が出なくなる可能性がある」とも言われました。甲状腺はのどぼとけの下にあります。腫瘍を全摘する手術で、声帯とつながる神経を傷つけてしまう可能性があり、声が出なくなるかもしれない、と。本当にショックでした。もう歌えなくなるかもしれない。「もっともっと、歌っておけばよかった」と、歌への未練や後悔に苦しみました。

 僕は家族を養うためにシナリオライターになることを断念しましたが、妻はずっと「夢を諦めないで」と言ってくれていた。もし夢がかなうなら、僕はやっぱり好きな歌を続けたい。手術が成功して、声が今まで通り出るようになったら、自分のCDを1枚作ろう。そして、自分の声を子どもたちに残そう――。

 そして、幸運にも手術は無事成功。リハビリのかいあって、半年後には前と同じように歌えるまでに回復しました。そこで、歌への挑戦を決意したんです。

 オーディション番組『歌スタ!!』(日本テレビ)に応募し、平井堅さんの『瞳をとじて』、ビリー・ジョエルの『Piano Man』を歌い、紆余曲折を経て、39歳で「home」でデビューが決まりました。

 病気は、夢への挑戦だけではなく、色々な変化のきっかけにもなりました。