―― キキ・スミスさんなどとの出会いを通じて、程なく河井さんの絵の魅力は、他のアーティストやアートディーラーの間に広まり、ニューヨークでの本格的な活動のきっかけになりました。

河井:キャリア上の大きな転機を1つ挙げるなら、ニューヨークで当時コンテンポラリーアートのキュレーターだったケニー・シャクターさんとの出会いですね。ニューヨークでの活動を始めて3年目の2002年には「ケニー・シャクター・コンテンポラリー」でグループ展に出品する機会を得て、立体作品の人形『Tree House』やインスタレーション作品を発表しました。

 このTree Houseが人気で、現地のメディア『ニューヨーク・タイムズ』でも大きく取り上げていただき、翌2003年にはP.S.1現代美術センター(現P.S.1 MoMA)で初めての個展を開催。その後もギャラリーや美術館などからオファーをいただき、各地で創作活動をしてきました。

『ニューヨーク・タイムズ』が絶賛、時の人に

―― 『ニューヨーク・タイムズ』の著名な美術評論家ロベルタ・スミスさんは、「Misaki Kawaiはまさにデビューするために、彗星のごとく現れた優れた才能のアーティスト!」など、誌上で絶賛しています。影響力のあるメディアでの高評価を受けて、どんなお気持ちでしたか?

河井:ロベルタ・スミスさんは私の作品をとても気に入ってくれて、その後もよいお付き合いをさせてもらっています。高く評価されたのはもちろんうれしかったのですが、キキさんやケニーさん、スミスさんに限らず、「自分が作ったものを誰かが気に入ってくれて、それをきっかけに交流が世界中に広がっていく」ことの連続が何より楽しいですね。

―― 2011年にはスウェーデンのマルメ美術館でグループ展を開催。当時の展覧会のキュレーターだったヤコブ・ファブリシャスさんが、後にデンマーク美術館に勤めるようになり、ヤコブさんが携わる新たな取り組みとして、デンマーク「フライング タイガー コペンハーゲン」でのアート×日常(プロダクト)のコラボプロジェクトが立ち上がりました。そこで集められたアーティストリストの中で、白羽の矢が立ったのが河井さん。記念すべき大きなプロジェクトを、夫であり、現在河井さんのマネージメントも務めるジャスティンさんと共に形にしました。

フィルムフォトグラファーで夫のジャスティンさん
フィルムフォトグラファーで夫のジャスティンさん

ジャスティンさん(以下、敬称略):まずデンマークから電話があり、フライング タイガー コペンハーゲンの責任者とデンマーク美術館のヤコブさんがニューヨークの美咲のところまで訪ねてきてくれました。僕が思っているフライング タイガーのテーマは「PLAYFUL=遊び」。そして、美咲の作品の特長でもある、“日常”の中にあるデザインと遊び心。求める世界観がお互いにぴったりだったんです。

河井:とても心の温かい人達で、ヤコブさんを通じて既に作品や私のキャラクターは伝わっていたこともあり、初めて会った気がしないほどすぐに意気投合しました。ミーティングの当日夜には、4人でニューヨークの卓球バーへでかけ、ジャズの生演奏をBGMに4人で盛り上がったのがいい思い出です。

――  今年4月末から発売スタート。コラボ商品は、ヨガマットや積み木パズル、トランプ、iPhoneカバー、縄跳びなど、遊び心がありつつ実用性の高いラインアップで、子どもから大人まで世代を問わず引きつけています。

ポコちゃんは「フライング タイガー コペンハーゲン」のカラフルなおもちゃやiPhoneカバーに興味津々!
ポコちゃんは「フライング タイガー コペンハーゲン」のカラフルなおもちゃやiPhoneカバーに興味津々!

河井:責任者の方からは「何でも作っていいので、作りたいものを教えてほしい」と言われました。手始めに6個くらい作ろうかとジャスティンが話していたのですが、このコラボが楽しくて仕方がなかったので、自分がほしいもの、作りたいものを考えていくうちに、30個以上もアイデアが出てきて絞るほうが大変でした(笑)。今回、日本では26種類展開しています。

ジャスティンもともとベースの形が決まっているものにただプリントをするのではなく、美咲ならではの色とデザインを大切にしたかったんです。そういった部分も、制作側と丁寧に調整しながら、イメージ通りのものができましたね。