息子が受験したいと言ったきっかけは、前年連れていった文化祭だった

開店前の一コマ
開店前の一コマ

 息子が「中学受験をしたい」と言い出したときは、とても驚きましたが、実はその前の年、私はある中学校の文化祭に息子を連れていっていました。当時、私は自分の仕事がうまくいかず、大きな借金を抱えていたので、息子の私立中学受験など全く考えておらず、何もない田舎町の娯楽として、軽い気持ちで誘っただけでした。

 けれども、その後、息子が本気で行きたいと言い出したときは、どんな無理をしてでも行かせてあげたいと思いました。だから、あんなに大嫌いだった父親に頭を下げたのです。

 息子が「受験をしたい」と言い出したのは、小学6年生の夏。中学受験といえば、今は小学4年生から受験勉強を始めるのが常識と言われる中、それはとても無謀なことでした。実際、塾の先生からも反対されたほどです。

 でも、「やる」と決めたからには頑張ってほしかった。

 ところが塾に通い始めて2日目、息子の様子を見に行くと、息子のノートは白紙。そこで「どうして宿題をやっていないんだ?」と尋ねると息子は「だって、まだ学校で習っていないところだもん」と少しふてくされた感じで答えたのです。

 その言葉を聞いて私は息子を怒鳴りつけました。

 「そんなことは初めから分かっていたことでしょ。入塾の面談を受けたときに、試験まで時間がないから大変ですよ、と先生にも言われたでしょ。でも、自分で大丈夫って言ったでしょ。学校で習っていなくても、できる問題はあるだろうし、先生に質問することもできるでしょ。習っていないからやらないというなら、もう受験なんてやめてしまいなさい」

 自分で決めておきながら目の前の困難から安易に逃れようとして、努力を怠った息子が許せなかったのです。中学受験やこれからの息子の人生を考えたときに、「できないこと」より「やらないこと」のほうが私には問題に思えたのです。だから息子を本気で叱りました。

 それ以来、息子は自分自身がやれることをやり、目標に向かって頑張りました。

 進学してからの息子の次の目標は「東大合格」になりました。けれども、まさか本当に東大に入れるなんて思ってもいませんでした。事業が失敗し、借金だらけで金銭的に苦しかった時期に、息子が私立の中高一貫校へ進学したいと言い出したとき、「キャバクラのおっちゃんの息子が東大に入ったら面白いね」なんて冗談のように出た言葉だったからです。でも、そこで「そういう選択肢もあるんだよ」と伝えてあげたかった。息子に「うちは水商売で金銭的にも苦しく、東大なんて入れるわけがない」とは思ってほしくなかったのです。

 店の女の子達の人生に選択肢が少なかったのは、それを教えてくれる大人が周りにいなかったから。だから、私はわが子にできるだけたくさんの選択肢を与えてあげたいと思いました。でも、それを選ぶのは子ども自身。そして夢がかなうか、かなわないかは、本人の努力次第です。