「この子を犯罪者にしてはいけない」

 そのとき、畠山さんが思ったのは「この子を犯罪者にしてはいけない」ということ。生みの親は一人で彼を育てていましたが、外で他人とけんかをしたり家の中で暴れたりする状態だったそうです。部活で骨折しても手当てをしてもらえない環境で育った少年は、畠山さんの家庭から高校に進学します。家族の中で初めて高校を卒業したというこの少年からは取材中に畠山さんの誕生日を祝う電話がかかってきました。

 畠山さんの実のお子さん達は「三つ子」でしたから、仕事と育児の両立だけでも大変だったと思います。それなのに自分の子どもだけでなく他人の子どもまで親子一緒にサポートし続ける――。あらためて「活躍」というのは大きな組織で肩書が上がっていくことだけじゃない、と思いました。

 今回、筆者に畠山さんを紹介してくれたのは、国際NGOのJENでプログラムマネジャーを務める高橋聖子さん。ひとり親家庭やDV被害者支援等を行う専門性の高いNPOに対し、人件費など運営資金を提供したり、マネジメントに関する助言を行ったりしてきました。ちなみに高橋さんご自身が小学生のお子さん二人を持つお母さんです。高橋さんは「だいじょうぶ」の事業を次のように評価するとともに、行政側の課題を指摘します。

 「虐待の恐れがある子どもやその親への対応、特に一時保護は緊急性・専門性が高い仕事です。NPO法人だいじょうぶは、行政からの委託を受けていますが、最初は重責に見合わない少額な委託費しか受けていません。実績を認められるにつれ、徐々に委託費が増えて人件費を確保することができるようになっています。それにより、経験豊富な職員や若いスタッフを雇うことができている実状を知り、希望を感じました」

 高橋さんが指摘する通り、最前線でソーシャルワークに関わる人の仕事は、人命が関わる重要な仕事です。畠山さんのお話を伺い、こうした重要な仕事が個人の善意と献身で行われている実態に敬意を覚えると同時に社会構造の問題も感じました。納税者としてはこういう事業にこそ優先的に税金を使ってほしいと思わずにいられません。