逆立ちも柔軟も子ども達は自分から「見て!」と積極的に取り組む
逆立ちも柔軟も子ども達は自分から「見て!」と積極的に取り組む

 ハキハキした声、満面の笑み、全身から溢れ出るバイタリティ。これまでこの連載では自然派志向の園を数多く紹介し、おっとりと控えめに子どもを見守るタイプの園長先生が多かった中で、今回迎えてくれた田中理事長は、いままでの保育園ではあまり会うことのなかったタイプの人だった。

 10年ほど前にテレビで偶然ヨコミネ式の教育法を見て、「子ども達に必要なのはこれだ!」と全身に電流が走るような衝撃を受けたという田中理事長は、すぐに九州の横峯氏に会いに行き、実施している幼稚園なども見学したという。関東に複数の店舗を持つアパレル会社を経営し、元々は教育業界には縁がなかった。しかし、人材育成という点では接客業でもずっと直面してきた問題であり、4人の子ども達が学校に上がるようになってからはなおさら日本の教育全体に問題意識を持つようになっていた。

 「多くの子ども達が勉強は『やらされている』と思っているし、だから楽しくなさそうなんです。それでは身に付かないし、伸びないですよね。ヨコミネ式で惹かれたのは、子どもが楽しそうだった点。『自分からやってみたい!』という意欲にあふれているのが見えて、これがまさに私が求めていたものだと思ったんです」

 ヨコミネ式の教育方針は、「心の力」「体の力」「学ぶ力」を育むこと。「すべての子どもは天才である」という考え方のもと、子ども達の能力を最大限に発揮するというものだ。

ピアニカもそれぞれで取り組む。先生の弾いた音を聴き分けられるようになるという
ピアニカもそれぞれで取り組む。先生の弾いた音を聴き分けられるようになるという

 ヨコミネ式との出合いから数年、田中理事長は教育業界について学び、勉強会やセミナーに参加したり、様々な場所へ出向いて視察し、2010年に数人の園児から保育事業をスタートした。最初はヨコミネ式ということへの戸惑いや理解を得るのに時間がかかったが、徐々に口コミで園児は増え、13年には万福寺園、14年には新百合ケ丘園を開園。さらに15年4月には同じ新百合ケ丘に認可保育園も開園した。今では妊娠中から入園希望があるほどだという。

子ども達が楽しみながら伸びる秘訣は?

 さて、一番気になるのは、子ども達の様子だ。ビルの1フロアを棚などで大きく3つのスペースに区切ってあり、1歳、2~3歳、4~5歳くらいに分けて異年齢で保育を行っているが、それも子どものそれぞれの成長に合わせて上のグループへ移動させ、柔軟に分けているという。

 子ども達がそろい、4~5歳のクラスでは朝の体操の時間が始まった。挨拶が終わると、円を描いて座り、ストレッチ20秒、ブリッジ20秒、V字バランス20秒など、先生の掛け声で子ども達がサッとポーズをとってみせる。何よりみんな楽しそうで、うまくできると「先生見て!」とうれしそうに声を掛ける。

 「○○くんいいポーズ!」「○○ちゃん、きれいにできてるね!」

と先生が褒めると、誇らしげだ。

他の子が逆立ちなどに取り組んでいる間、残りの子達は応援。応援を盛り上げるのも大事な役割
他の子が逆立ちなどに取り組んでいる間、残りの子達は応援。応援を盛り上げるのも大事な役割

 その後、ノリのいい童謡に合わせて室内いっぱいにグルグルと走り始めた。みんな全速力。子ども達だけでなく、先生も田中理事長も走る。歌1曲分で約3分間。子ども達は疲れる様子もなく走り続け、次の曲がかかると反対周りにまた1曲分走り続けた。

くるくるくるくる、子ども達は疲れを見せず走り続ける
くるくるくるくる、子ども達は疲れを見せず走り続ける

 「ここの子ども達は、これが習慣なので体力もついています。この後にお散歩だってしっかり20分くらい歩いて公園などに行って、遊んでまた歩いて帰ってきますよ。ついこの間も幼児組は高尾山登山をしっかり全員歩いてきたばかりです」と、田中理事長も息を切らせることもなく話す。子ども達のエネルギーについていくためにも、毎日ランニングや体力作りを欠かさないという。

 走った後も、子ども達は逆立ちや倒立を次々こなして見せた。倒立をしている間に崩れてしまう子、まだ倒立のできない子も中にはいた。けがをすることはないのか、できるようになるために特訓をするのか、いろいろ思った疑問をぶつけてみた。

毎日柔軟を繰り返している子ども達には、おちゃのこさいさい。けがも減るという
毎日柔軟を繰り返している子ども達には、おちゃのこさいさい。けがも減るという