1999年、文部省(当時)の旗振りで誕生して以来、年々、人気が高まり続けている公立中高一貫校。高校受験をすることなく、6年間かけてじっくりと生徒を育てるという授業内容が注目を浴び、第一期生が卒業後、難関大学の合格実績を出していることからも、さらにその人気はヒートアップしています。今回の特集では、公立中高一貫校について詳しく見ていきます。
 特集第1回は、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』の著者である教育ライター・佐藤智さんと、都立11校中8校でトップの合格実績を誇る、公立中高一貫校対策を行う塾「ena」の小学部長・中村絢香さんを取材し、公立中高一貫校の設立の背景や教育内容、入学情報、人気の理由などをじっくり伺いました。

【公立中高一貫校の今 特集】
(1) 公立中高一貫校 人気上昇の背景と受検倍率公開! ←今回はココ
(2) 公立中高一貫校 4年後の大学入試改革では有利に?
(3) 公立中高一貫17校を徹底分析 学校選びの着眼点
(4) 小石川と白鷗 公立中高一貫人気2校リアルリポート
(5) 総合力求める公立中高一貫校「適性検査」傾向と対策

そもそも、公立の中高一貫校はなぜできたの?

 中高一貫校といえば、私立のイメージが強くありますが、公立の中高一貫校も増え続けています。それでは、公立中高一貫校とは、どういうものなのでしょうか? 教育ライターの佐藤智さんはその歴史について、こう語ります。

  「1999年、ゆとり教育全盛の真っただ中に公立中高一貫校は生まれました。当時は、過熱する高校受験競争を問題視する声が多く、受験に煮詰まった受験生が自殺してしまうといった出来事も発生するなどして、国が『ゆとり教育』にかじを切るべき背景がありました」

 そうしたなかで生まれたのが、ゆとりを持って6年間、じっくり子ども達を教育するという公立の中高一貫校でした。しかしその後、2003年と2006年にはOECD(経済協力開発機構)の学習到達度に関する調査「PISA」で、日本の子ども達の学力が著しく低下していることが問題視されるようになります。

教育ライター・佐藤智さん
教育ライター・佐藤智さん

 「ゆとり教育が痛烈なバッシングを浴び大幅に見直されることで、公立中高一貫校もその位置付けが徐々に変化していきました。ゆとりを持って子ども達を育てていきたいという本来の使命だけではなく、教科学力と共に“生きる力”を育み、次世代のリーダーを育成するといったことが求められるようになったのです」(佐藤さん)

 特に、設立の初期段階から教科学力と“生きる力”の育成に力を入れているのは、東京都。2005年に都立で初の公立中高一貫校「都立白鷗高等学校・附属中学校」が開校し、その翌年には「都立小石川中等教育学校」「都立桜修館中等教育学校」「都立両国高等学校・附属中学校」「千代田区立九段中等教育学校」が開校しました。さらに2008年に「都立立川国際中等教育学校」「都立武蔵高等学校・附属中学校」、2010年には「都立大泉高等学校・附属中学校」「都立富士高等学校・附属中学校」「都立三鷹中等教育学校」「都立南多摩中等教育学校」が続き、区立を含め都内の公立中高一貫校は現在、11校となっています。

 なぜ、東京都は公立中高一貫校設立に力を入れているのでしょうか。佐藤さんは、こう解説します。

 「東京都の場合、特に私立の中高一貫校の台頭が著しく、私立は難関国公立大への合格実績でも群を抜いていました。『都立日比谷高等学校』や『都立西高等学校』『都立青山高等学校』『都立戸山高等学校』など、名門とされる都立の進学校の復権のために、進学指導重点校として、大学受験を突破するための学力の育成に力を入れ始めました。進学指導重点校と共に、さらなる切り札として、6年間かけてじっくり学べる公立の中高一貫校を作っていったという流れがあるのです」

 私立も合わせた全国の中高一貫校の数の推移は、下図の通りとなっており、全体的に学校の設置数は右肩上がりです。公立の中高一貫校は、2015年度現在、全国で194校となっています。

■私立も合わせた中高一貫校数の推移

出典:文部科学省「学校基本調査」の資料を基にDUAL編集部で作成
出典:文部科学省「学校基本調査」の資料を基にDUAL編集部で作成