公立中高一貫校が目指す教育とは?

 前述のように、公立中高一貫校はゆとり教育の流れで生まれたもの。当初は進学実績よりも、6年間一貫教育によって教科学力以外のものを身に付けさせ育てようといった風潮がありました。しかし、近年は都立の進学校や私立の中高一貫校に負けないような進学実績に近づけようといった色合いも濃くなってきています。

 では、公立中高一貫校が目指す教育とは、どんなものなのでしょうか?

 「従来の進学校でも謳うところではありますが、リーダーになる子どもを育てていきたいという方向性が強い。多くの公立でリーダー育成に力を入れているといっていいでしょう。特に桜修館などは有名ですが、勉強だけでなく部活動もしっかりやって、学園祭などの学校行事も盛んで、しかも生徒自ら運営もする。5年生のときにまとめる論文に向けて、毎年勉学以外のところでしっかり準備をしたりと、幅広く学んでいくというのが公立中高一貫校が目指すリーダー像でしょう」(佐藤さん)

 また、地方の学校の場合、その地域を背負ったリーダー育成の意味合いも強くなり、「地域の探究学習を濃密にやったり、地域で活躍する人達の講話を授業に積極的に取り入れたりすることも手厚くやっています」と、佐藤さんは言います。

 公立ながら、私立にも負けない独自カリキュラムを打ち出す学校も多く、英語のリスニングや第二外国語を選択できるなどグローバル教育に力を入れていたり、最先端科学への関心を高めるためのプログラムやディベート力を磨くプログラムを組んだりと、それぞれの学校の特色を生かした個性的な授業が行われています。

合否を決めるのは入学試験ではなく「適性検査」

 公立中高一貫校を語るうえで忘れてならないのが、「適性検査」です。公立中高一貫校の場合、「受験」ではなく「受検」といいます。なぜかといえば、学校教育法が受験競争の低年齢化を防ぐ目的で、公立中学校は私立などで行われる「学力検査」を禁じているからです。

 そこで、私立受験のような科目別テストではなく、作文などを通して考える力や表現力など、教科を超えた総合的な思考力や表現力などを見るための「適性検査」が行われます。

 「適性検査では、私立と違って、ほとんど知識量が問われることがありません。公立である以上、入試による学力選抜ということができないので、その子の思考力や学校で学んだ基礎学力を測る問題になっているといっていいでしょう。私立に比べて、小学校の勉強にプラスアルファといった感じの知識が問われる程度で、あとは思考力や計算力、作文力を鍛えることで対策ができることも魅力の一つです」と中村さんは言います。 

 「公立中高一貫校を目指す場合、私立を併願するケースは増えているものの、不合格となったら公立の中学校に行って、その後、高校受験で進学校を目指すご家庭が多いです。最終的に国公立大学入試を目指し、長い目で見て論理的な思考力や“本物の学力”を身に付けさせたいと考える保護者も多いですね」(中村さん)

 ――次回の記事では、期待を背負う公立中高一貫校の先生の役割や難関大学合格実績の最新データ、今後の見通しなどに詳しく迫ります!

佐藤智
横浜国立大学大学院教育研究科修了。出版社勤務を経て、ベネッセコーポレーション教育研究開発センターにて、学校情報を収集しながら教育情報誌の制作を行う。その後、独立。全国約500人の教師に話しを聞いた経験を基に、現在、学校現場の事情を分かりやすく伝える教育ライターとして活躍中。2015年に『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)を上梓した。

中村絢香
学究社が運営する進学塾「ena」の中学受験対策をする小学部の部長として、都立中高一貫校を目指す小学生と常に向き合い、指導する。enaは、いち早く公立中高一貫校対策に着手し、今年度の都内の公立中高一貫校11校(都立10校・区立1校)のうち、実に8校で進学塾のなかでの合格者数1位を獲得。合計682人の合格者数となり、公立中高一貫校対策を行う塾として知られている。

(文/國尾一樹 図版作成/コッコト 編集協力/須賀美季)