今でも妻は「あのとき休みを取ってくれてありがとう」と言う

―― 具体的にはどんなふうにして1日を過ごしていらしたのでしょうか?

清水 妻の入院中は、朝は私がごはんを作って娘を小学校に送り出して。それからジムに行って運動してから、買い物して帰宅。15時ころに娘が帰ってくるので、一緒に妻と次女のお見舞いに行きました。家に帰ったら夕食を食べさせて寝かせる。掃除・洗濯ももちろんやりました。

 退院後も家事と長女の世話は私が担当で。妻は産後、身体的にもかなりしんどかった様子でした。家の中でちょっとしたものを取ってあげるというだけでも、とても喜ばれたことを覚えています。たったの1カ月間でしたが、育児・家事の大変さや喜びを学びましたし、妻からは今でも「あのとき休みを取ってくれるとは思わなかった。本当に感謝してる」と言われます。私達家族にとっては掛け替えのない時間だったことは間違いありません。

制度改訂の裏側にあった、一人の男性社員の切なる願い

―― 今回の制度改訂は、従業員の意向もあったそうですね。

清水 弊社には7~8カ月かけて行う社員研修制度があります。その最後に、経営への提言として自身のウィル(Will)をリクルートグループを通してどう実現していくか、考えて発表するというワークがあるのです。今年1月に行われたその発表の場で、ある小学校低学年の女の子の父親社員が「男性社員の育児休暇取得を必須化してほしい」と訴えたのです。その内容が非常に意義あるものだったのと、弊社が実施しているダイバーシティー推進の方向性と合致していたことから、その後3カ月という急ピッチで制度改正に漕ぎ着けました

―― 役員会ではどのような議論が起きたのでしょうか?

清水 社労士さんからは「社員に有給休暇扱いの休暇を年休以外に付与して、取得を必須化するというのは前例がない」と言われました。役員会が心配したことは2つ。1つは、該当する男性社員による「休むことでキャリアが分断されてしまう」「もっと仕事をしたいのに」というネガティブな反応。もう1つは、「子どもが生まれる男性だけが有休を取れるのか。いいなあ」という声。でも、今のところ、そういった反応はありません。

 とにかく、私はこの制度改正により、「育休は男性も一般的に取るものだ」という考え方を広めたい。今は、やっぱり男性は育休は取らないのがまだ当たり前。取る人は一部の例外である、というイメージがまだありますよね。でも、近い将来、「日本では男性が育児休暇を取るのが当たり前」にしたい。そういう経営の意思を込めました。

―― 少し細かい質問をさせてください。今回の制度改正は、女性活躍推進のためだ、とのことですが、貴社の男性社員の奥さんが貴社にお勤めだとは限りません。貴社が費用を負担して、他社に勤める女性社員をサポートする、という考え方もできますよね。それが不公平だ、といった考えはないのでしょうか?

清水 1カ月分の給与というコストは議論の必要が全くないくらい小さな額です。不公平だなどとは一切感じません。