主体的に「自分達の問題」として考えること自体が、一番の効果

田中 私も紹介したい事例があります。私が以前、富士通の子会社常務だったときの話です。ソフトウエアを作る会社だったのですが、とにかく残業が多かったんです。それを見た当時の社長が「この会社はこのままではいずれインドに抜かれる。わが社はトヨタ生産方式を導入する」と言い出しました。

 物を作るメーカーではなく、あくまでソフトウエアを作る会社でしたから、そんな会社がトヨタ生産方式を導入するなんて前例がなく、上からも下からも反対に遭いました。でも、社長は強引にトヨタ生産方式を学ぶ塾を社内につくり、その塾で学ばなければ管理職になれないというルールまで作ったんです。

 社内で小さな会議を設けて、若い社員達にも「どうすれば働き方を変えられるか」というテーマで話し合ってもらった。そこで、会議参加者達は自分達の仕事をホワイトボードに書き出して、仕事分担の平準化を始めました。ある程度成果も上がったのですが、その様子を見ていて一番感銘を受けたのは、社員達の目が生き生きと輝き始めたことでした。要は主体的に「自分達の問題」として考えること自体が、一番効果があったのではないかと感じたんです。

 ですから、それぞれの会社がそれぞれのやり方で考えることが大事だろうと思います。そうすれば職場は変わっていけるのではないでしょうか。

「働き方変えろ。日本死ぬぞ」

矢込 では最後に、ワーク・ライフ・バランスを達成した先にあるものを教えてください。

川島 いいことしかありません。会社はもうかる。自分の人生は楽しくなる。社会はより実り多きものになる。やらない理由はないでしょう。

大塚 日本は危機的状況にあります。今働き方を変えて、少ない労働力でも知識・知恵で戦っていけるようにしなければならない。そういう時期に来ていると思います。

田中 ワーク・ライフ・バランスを達成することのメリットを語るのではなく、ここで働き方を変えなければ日本の社会は崩壊する、と私は言いたいです。今の若い世代の間では共働きが普通になっています。50代、60代はあまり認識できていないかもしれませんが、事実、共働きはどんどん増えている。そういう状況の中で、今までと同じような働き方をしていたら家庭は崩壊します。つまり、日本が崩壊するわけです。「保育園落ちた。日本死ね」ではなく、「働き方変えろ。日本死ぬぞ」です。

田中さんの「働き方変えろ。日本死ぬぞ」というコメントで会場は緊張感に包まれた
田中さんの「働き方変えろ。日本死ぬぞ」というコメントで会場は緊張感に包まれた