ワーク・ライフ・バランスの取りやすさに、業界による偏りはない

大塚 いえ、業界による偏りはありません。ついでに申しますと、企業規模も関係ありません。弊社も従業員が4人しかいらっしゃらない企業をコンサルしたこともありますし、1万人以上の大企業の方々と仕事をご一緒したこともあります。要は「うちの会社には無理に違いない」「うちはやらなくても大丈夫」という意識を持ってしまっているかどうかの違いだと思います。「うちはこういう業界だから無理」「こういうお客様が多いから残業も仕方ない」ではなく、「わが社だからこそ働き方を改革すれば強みにできる」「業界にまだそういう会社がないからこそ、今やれば先進企業になれる」という考え方をすることが大切でしょう。

矢込 医療業界だから難しいという私の先ほどの発言は、言い訳でしかなかったわけですね(笑)。

バリー 新しい働き方の議論が、他の誰でもなく、私達一人ひとりの問題なのだということに気づかなくてはなりません。私は年に230日間、出張していますが、すべての予定をOutlookに入れて全社員が見られるようにしています。時間の使い方を変えるのは自分自身でしかないのです。

 「仕事のメールのやり取りで忙しい」という人がいますが、本当にそうでしょうか? 私はメールは原則として一言で済ませます。「お世話になっております」「お元気ですか?」といった時候の挨拶は不要でしょう。メールで忙しいのならば、何か方法を変えればいいのです。

「早く帰りたい」と思えるほどやりたいことを見つけようぜ

矢込 川島さん、ワーク・ライフ・バランスがどうしてもうまく取れない人のためにアドバイスをお願いします。

川島 「『早く帰りたい』と思えるほどやりたいことを見つけようぜ」、と。長時間残業をする人には、やることのない中高年男性が多いんです。そして、その仕事の仕方を部下にも押し付けている。そんな人でも、自分のライフの目標ができると、早く帰るために限られた時間で結果を出す戦略を練り始めるはずです。

大塚 弊社がコンサルを手掛けた三重県の調剤薬局さんの事例を紹介します。ここは約10人の薬剤師さんで構成されている小さな調剤薬局さんでした。残業は元からあまりなく、ワーク・ライフ・バランスにはそれほど問題意識がなかったのですが、競合他社が多いため、競合と差別化する戦略を立案するというのがコンサルとして私達に課されたミッションでした。そこで、我々が提案したのは、よりワークとライフを充実させて相互のシナジーを高めよう、という方法でした。

 その薬局さんには入社2年目の新卒社員がいたのですが、ワーク・ライフ・バランスを残業削減施策だと思っていた彼女は「その活動には参加したくない」と最初猛烈に反発してきました。でも、「ライフを充実させるために、それぞれのやりたいことを見える化しましょう」というワークを始めたところ、「みんなのライフを充実させるためだったら、私やれます」と意識が変わり、薬剤師同士で情報を共有する施策や、患者さんに薬の情報を提供する方法を考えたりと積極的に動いてくれて、最終的に売り上げを前年の230%にまで伸ばしたんです。正しいゴール設定と意識付けが、大きな成果を生む事例だと思います。

会場には、企業人事部や管理職を中心とした約40人の参加者が集った
会場には、企業人事部や管理職を中心とした約40人の参加者が集った