保育や介護の現場で起きる「やりがい搾取」

 これは、介護業界にも当てはまります。介護労働者の給与も低いのですが、項目別の満足・不満足のグラフを作ると、上記の保育士の図とそっくりになります(介護労働安定センター『介護労働実態調査』2014年度)。保育士と介護士。双方とも、やりがいへの満足度が高く、不満は給与面に集中しています。前者によって、後者が表出(噴出)するのが抑えられている。こういう構造です。「やりがいによる搾取」と呼んでもいいでしょう。

 「やりがい搾取」という概念は、2008年に本田由紀・東京大学教授が提唱されたものです(『軋む社会-教育・仕事・若者の現在-』双風舎)。はてなキーワードの手短な解説を引用すると、「企業風土が従業員にやりがい報酬を意識させて、金銭報酬を抑制する搾取構造になっていること。賃金抑制が常態化したり、無償の長時間労働が奨励されたりすること。働き過ぎの問題として」、本田教授が名付けた概念とあります。

 なるほど、保育や介護の現場では、こうした事態になっていると考えられます。図2のように、やりがいと給与に対する意識が対峙する仕事というのは、そう多くないと思われます。これに該当するのは、人のケアを職務とし、顧客に対する気配り(思いやり)が求められる職業です。

 ホックシールド流(『管理される心 ― 感情が商品になるとき』世界思想社)にいうと「感情労働」の仕事ということになりますが、保育士や介護労働者はその典型です。「顧客のためなら劣悪な労働条件も厭わない、それに不平を言うべきでない」。こうした思いが労働者の内に生まれやすい仕事で、学校の教師も該当するでしょう。超過勤務を求める際の決まり文句は、「子どもがかわいそうと思わないか」です。これを言われると、反論しづらい……。

 ホックシールドによると、こういう仕事では「思いやり疲労」というバーンアウト(燃え尽き)が生まれやすいとのこと。近年の教員の離職率上昇などは、それに起因する面もあるかと思います。