子育てに箇条書きのルールはない

【ポイント】
・子育てとは人と人が暮らしていくこと。わかりやすくルールで伝えられるものではない
・父親が自分の仕事の楽しさを話すことは、「生きることは退屈ではない」と伝える手段になる

――考え続けるとは言うものの、やはり子育ての指針となるルールが決まっていないと不安に思う若い方はたくさんいると思います。

 確かに、ルールがあれば簡単です。でも子育てというのは、人と人が一緒に暮らしていくということです。それは箇条書きにして、誰にも適用できるルールで伝えられるものではないですよね。

 たとえば赤ちゃんのことでいうと、こういう気温の時は何枚服を着せたらいいかとか、色々不安なことはあると思うのですが、やはり自分の感覚が一番大事。自分も寒いと思ったら赤ちゃんも当然寒いと感じているわけですから、そうしたら服を着せてあげればいいわけです。

 感覚の話ですから、もちろんその中には効率的じゃないこともたくさんある。でも、一緒に暮らしているだけでしっかり子ども達の中に残るものってあると思います。

 僕は仕事ばかりしていて家庭にいた時間は少ないけれど、男女4人の子ども達は大人になった今、みんな医療や子どもに関わる仕事に就いている。お父さんがどんな仕事をしているのかを話すことは大事だと思います。特に男の子だと、お父さんのやってることをやってみたいという子も多いんですが、話さないお父さんって多いんですよ。

 ある時知り合った子どもは、父親に「何の仕事をしてるの」と聞いても「会社に行ってる」としか答えてくれないと言っていました。でも実は、その子の父親はプロペラの角度を研究している方だった。そういうの、子どもは絶対格好いいと思うじゃないですか。でも、噛み砕いて説明するのが難しかったりして教えられていない人が多い。もったいないなあと思います。

 子育てにはルールもなければ、効率よくいくわけでもない。そんな中で父親が子どもに伝えなくちゃいけない一番大切なことって、「生きていくことは退屈じゃない」ということじゃないかと思います。こういうことは、父親のほうが得意なことが多いですね。その手段として、自分がこんな仕事をしていて、こんなことが楽しいと伝えるのは重要だと思います。

 逆に、子どもに寄り添うのは母親のほうが得意なことが多いです。女性がもつ「自分から生まれてきた」という特別な感覚は、男性には絶対持てないですからね。父親は一緒に暮らしていく中で主体的に親子関係を築いていくほうが向いていると思います。