家庭に帰れなかった昔の小児科医
――小児医療の現場で長年子育てについて関わり、ご自身も4人のお子さんを皆さん成人するまで育てられました。小児科医として、また一人の父親として、昔と今の子育てで変わってきたと思う点はありますか。
まず、私のいた小児医療の世界では、昔は医者が家に帰るのを社会が許してくれない一面がありましたね。アメリカでは自分の勤務時間を働いたら次の人に仕事を引き継いで、家で子どもの面倒をみるという仕組みができていましたけれど、日本では家に帰ると『あの人、帰っちゃったよ』なんてよく言われました。
だから正直に言って、私は自分の子育てにたくさんの時間を割いてはいません。とはいえ、自分の私生活を犠牲にしているとは思わなかったですけどね。一番不幸を背負っているのは病気の子どもを持った親御さんだと考えていましたし、そのころ私は夫婦の分業化が大事だと考えてもいました。私と奥さん、どっちがお金を稼げるかといえば私の方が稼ぐことができたので、「働きたい」と言っていた奥さんに、家庭で子どもの面倒をみてもらっていたんです。保育園も今みたいに整っていなかったですからね。
でも、今はそういう働き方をしていたら、家庭がうまくいかなくなりますよね。昔は女性は家庭に入ることを仕方のないこととして受け入れなくてはいけない風潮がありましたけど、今はそうじゃない。ワークライフバランスや女性の社会進出、本当の豊かさが社会に浸透してきて、いい方向に世の中が変わってきていると思います。医療の現場でもチーム制で仕事を行うようになり、個人の負担が軽くなることも増えてきました。
小児科医としてそうした社会の変化を見てきた中で、父親に求められている役割をいうとすれば、今は時代の変革とともに社会のルールも変わってきています。それにともなって、家庭のルールも夫婦で相談して、それぞれ作っていくことが求められていると思います。