「鈴ちゃん、算数には『覚えること』と『理解すること』の2つがあるんだよ。『覚えること』というのは、瞬時に正確な答えを出すこと。例えば、今出した計算くらいであれば、これからいっぱい出てくるから、知識として暗記してしまったほうがいいね」

 「中学受験の算数の入試は、スピードと正確性を問われる問題があるよ。それを今みたいに、考えながら答えていたら、時間が足りなくなってしまう。だから、毎日の計算練習はとても大事なんだよ」

 鈴ちゃんは初対面の先生にズバッと指摘されて、少し恥ずかしそう。佳奈美さんの話では、鈴ちゃんは学校でも塾でも先生に物怖じせず積極的に発言していくタイプですが、西村先生の前ではまだ緊張気味の様子。

 次に西村先生は図形の問題を出しました。西村先生は鈴ちゃんが塾で使っている既存の参考書はパラパラとめくって確認する程度で、鈴ちゃんの理解度や教えたい内容に基づいて、その場で問題を作り、ノートに書いていきます。

 西村先生が聞きます。「直角三角形の定義は何だっけ?」。これについては「一角が直角になっている三角形」とスラスラ答えられる鈴ちゃん。

 でも、「じゃあ、底辺3cm、高さ4cm、斜辺5cmの直角三角形の中にある円の半径は何cm?」となると、頭を抱えてしまいます。

 「これは暗記ではなく、理解が必要な問題だね。でも、頭を抱えているだけでは、答えは出せないよ」

 では、理解が必要な問題は、どのようにして答えを導くのでしょうか? 西村先生の一言で、鈴ちゃんが変貌を遂げる瞬間がありました。

考えるとは書くこと。頭を抱えているだけでは答えは出ない

 「鈴ちゃん、まず底辺3cm、高さ4cm、斜辺5cmの直角三角形を書いてごらん。直角になっているところはどこかな? その直角三角形の中に、底辺、高さ、斜辺それぞれに接するように円を描くよ。その円の半径を求めるんだよ。どうやったら求められるかな? 何か書いてみると分かるかもしれないよ。円の中心からそれぞれの角に線を引いてみるとどうなるかな? 何か分かりそうじゃない?」

 西村先生に誘導されながら、鈴ちゃんは手を動かしていきます。すると、途中で鈴ちゃんの表情がパッと明るくなり、何やら懸命に書き出し始めました。

西村先生は、持参したノートにきれいに問題や解説を書き込んでいきます
西村先生は、持参したノートにきれいに問題や解説を書き込んでいきます

3×○/2 + 4×○/2 + 5×○/2=6
12×○=12
○=1
* 円の半径を「○」と表す 

     円の半径は1cm!
西村先生 正解! じゃあ、底辺5cm、高さ12cm、斜辺13cmの直角三角形の中にある円の半径は何cm?

 鈴ちゃんはもう頭を抱え込まず、手を動かし始めています。

受験によく出る図形問題を続けざまに解いていきます
受験によく出る図形問題を続けざまに解いていきます

 西村先生はさらに問題を出していきます。 

 「複雑な三角形の角を求める問題」「正方形の中にある四角形の、そのまた中にある円の面積を求める問題」「正五角形の内角を求める問題」などなど。図形が苦手な子だったら、思わず悲鳴を上げたくなるような問題ばかりです。

 でも、西村先生からちょっとしたコツを教えてもらった鈴ちゃんは、これまでとは違います。