子育てが自分と世界を結び直す学びの場になる

 彼らは私に「生きていることは、その矛盾や不条理も含めて、理屈抜きに美しい」と教えてくれた。44年近い人生で彼ら以上にそれを饒舌に教えてくれる存在はなかったし(ごめんね夫)、そのことによって、私は生きることを、以前よりもはるかに前向きに捉えることができるようになった。

 子育てには向き不向きがある。子どもとの相性もある。子育てをことさらに美化するつもりもない。でも、子育てが自分と世界との関係を結び直すためのかけがえのない学びの場になることは、あると思う。人の成長ってつまりは変化することだけど、私が子育てを経験して最も大きく変化した点は、「生きてるってことは、思い通りにならないってことだ」という、若い頃には到底受け入れがたかった事実を受け入れられるようになったことだ。そして、人は発生した瞬間から既に「誰か」なのだから、どんなに関係が近くても、お互いにわからないことだらけでも当然、と納得した。だからって別に、この世は砂漠じゃないぞ、と。

 100パーセント理解し理解されることをゴールだと思い込んでいた私が、「分かり合えなくても生きていける」という衝撃の事実を学んでしまったのである。そうしたら、人の尊厳を重んじるとか、多様性に寛容になるとかいうことがどういうことなのか、前よりもよくわかる気がしたのだ。あら、私、少し賢くなったのかも……と嬉しかった。

 働きながら育児をするのはしんどい。自己嫌悪になることもしょっちゅうだ。この春から保育園デビューした人は特に、こんな大変な思いをしてまで働く意味があるのだろうか?と悩むことも多いだろう。だけど、仕事をしていようがいまいが、赤ちゃんや幼児と一緒に暮らすってことは、えらく大変なのだ。今自分が取り組んでいるのは、他のどの人間関係よりも、クリアするのに難易度が高いお題であることを思い出そう。

 散らかった部屋で、いい年した大人とちっちゃな子どもが喚いたり泣いたりしながら、何度も抱き合って何度も笑いあって、予測不能な今日を生きていく。それはきっとあなたに、人生は大変だけど捨てたもんじゃないぞって、教えてくれると思う。