もちろん、その時間の流れの中に細かく「うわ子ども可愛い!」とか「これって奇跡」みたいな一瞬がちりばめられていて、それは実に実にとても美しいことなんだけど、いま最高に可愛いと思った相手に次の瞬間死ぬほどイライラさせられるという気持ちの振幅の激しさに、相当な体力の消耗をしたのも確か。

「大変」と「感動的」という矛盾を抱えているのが育児

 で、これをですねえ、子どもとの暮らしを経験したことのない人に語るのはなかなか難しいのですね。子育ては大変だけど感動的、というときの「大変」と「感動的」は、他の人間関係ではなかなか味わえない、とてつもない矛盾を抱えたワンセットだから。私も30歳を過ぎてからこんなに泣いたり怒鳴ったりするとは思わなかったし、それまでに触れたどんな映画や小説よりも、幼い我が子の一言が、全宇宙が泣いた!レベルの感動を与えてくれた。

 多少仕事でいろんな経験をしてきて、そこそこデキる女のつもりでいたけど、そんな能力、何の役にも立たなかった。幼児というものは、それまで出会ったどんな話の通じない上司よりもわからずやで、どんな世話の焼ける後輩よりも手がかかる。誰より大事な人に誰より辛い目にあわされるって、なんて苦しいことだろう……と、それまでの恋愛なんか鼻息で吹き飛ぶほどの思いをするわけだ。

 今も中2と小5の息子たちは、私を苛立たせては笑わせてくれる憎いやつらだ。そういう関係を一言で言い表すのは、とても難しい。でもひとつはっきり言えるのは、私は彼らがいなかった頃の世界がどれほど寂しかったか、知っているってことだ。