お母さんが子どもの愚痴を言ってしまう状況をなんとかしたい

 一方、周囲のお母さんを見ていると、SNSでは元気そうにしている人が実は誰にも相談できない育児ストレスを抱えていたりして、「私は奇跡的になんとかなっただけで、都市部で子育てしているお母さんはとても窮屈な環境に置かれている。ものすごいストレスを乗り越えて子育てしないといけないんだ、と気づきました」

 それは、産後1年ほど経った友人と久々に会ったときのこと。

 「ママ友と近所の児童館に集まり、愚痴を言ってストレス発散するしかない、と友人が言っていたんです。初めは夫の愚痴かと思って聞いていたら、子どもの愚痴。1歳そこそことはいえ、子どもの前で寄って集って子どもの愚痴を言うことはやめて欲しい、と率直に思ったんです」

 友人をよく知っていたこともあり、その子が悪いわけではない、きっと何か理由があってそうなってしまったに違いない、と思考が回り始めたそう。

 「いきついた結論は、私も彼女と同じ環境だったらきっとこうなっていたに違いないということ。お母さん1人で子どもと向き合っている時間が圧倒的に長い、ちょっとどこかに行こうと思っても預けられる人が身近にいない、ほとんど1人で子育てをしている……。環境いかんによって、お母さんが子どもに向き合う姿勢がこんなにも変わってしまうんだ、ということに問題意識を持ち、それが起業のきっかけとなりました

 今の子育て環境に問題があるということが友達の姿を介して自分ごとになり、自分が解決しないといけない、と思ったといいます。

無理矢理大人の時間を共有させることが、子どもに対して失礼

 その時に役に立ったのが、自分自身の経験でした。

 「産後、プライベートで友達と食事に行ったり、ゆっくり大人同士で過ごしたりしたいときに、子どもを連れて行くのがしっくりこなかったんです。子どもが6~7カ月を過ぎると、動きたいし、声も上げる。この子に無理矢理その時間を共有させることが、子どもに対して失礼だと感じました。それを強いてまで友達と会っていても全然楽しくないし、そうしたいとも思いませんでした」

 そこで、山下さんが考えたのが、食事に行く前にレストランに掛け合い、自分達はダイニングで食事をする間、子どもとベビーシッターが過ごせる個室を貸してもらう、ということ。

 「事前にレストランと調整し、ベビーシッターを個別に手配。食事の開始時間に合わせて現地に来て子どもを見てもらう、という時間の過ごし方をしていました。これが今の『ここるく』の原点です」

 追加料金を取らずに受け入れてくれるレストランを探して交渉するのは面倒なこと。でも、自宅ではなくあえてレストランにシッターを呼んだのには理由がありました。

 「娘が3カ月の頃から人見知りが始まり、家にシッターを呼んで、娘を長時間置いて行くということのハードルが高かったんです。夫に預けたくても、預けられないときもありました。そこで、娘とレストランまで一緒に出向き、食事している正味1~2時間だけ抱っこを代わってくれる人がいたら理想的だな、というのが最初の着眼点です

 もしも本当に泣き続けてどうにもならなかったり、授乳の間隔が気になったりしたら、すぐ隣にいるので行けばいい。最終的な選択肢が自分にあるという環境に整えておきたかったといいます。