参加したママ達が感じたこと

 「対話しながら鑑賞することで、全く意味の分からなかった作品に解釈が生まれた、見えていなかったものが見えてきた。他者の発言を聞くことによって、もっと細部を見てみようと思うようになった」

 「想像以上に、作品の解釈をする際に、子どもの存在に影響を受けていたことが意外だった。どの作品を鑑賞しても、育児つながりで鑑賞している自分がいることに気づいた。この状況を、良いとも悪いともいえないが、もっと客観的に鑑賞したいような気がする」

 「子連れで美術館へ行けることも知らなかったが、知っていたとしても周りの方に迷惑を掛けてはいけないと思い行けていなかったと思う。実際に今回のような経験をすることによって、美術館は子どもと一緒の来館も歓迎してくれていることや、子どもが騒いでしまったときの対処法も分かり、とても行きやすくなった。またギャラリートークという形で観賞し、他の方の意見を聞くことで、自分自身の作品の捉え方が何倍にも増え、一人のときよりも充実した内容になった」

 参加したママ達からは、様々な感想が出ました。自分一人で様々なことを考えながら、静かに鑑賞する機会も大切ですが、対話による鑑賞会には、一人のときとはまた違った、多くの気づきがあるようでした。

小・中学生向けのプログラムなども実施

 東京国立近代美術館では、一般的な展示解説とは異なる、様々な「対話による鑑賞」プログラムを行っています。受け身の鑑賞ではなく、対話による鑑賞のスキルを持ったガイドスタッフが、参加者の発言や感想を引き出しながら展開するため、多様な解釈や対話の深まりを経験できるそうです。

 毎日開催していて誰でも自由に参加できる所蔵品ガイド(毎日14時~約1時間開催)、小・中学生の学校授業の一環として行われるスクール・プログラム、夏休みに行われる子ども向け鑑賞プログラムなどがあります。今回のようなママ向けの展示会のように、生涯学習団体からの要望にも可能な範囲で応えているといいます。

 「そもそも美術作品は、既存の価値にとらわれない独自の世界観や価値観から成り立っていて、その解釈も自由なもの。それを題材に対話することで、多様な価値観や視野の広がりが実感でき、教育や自己啓発においても有効な素材ではないか」と同美術館広報室長の滝本昌子さんは話します。

(取材/文 日経DUAL編集部 砂山絵理子)